書評 ロフティング 「ドリトル先生アフリカゆき」 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」 015 20240710
ドリトル先生シリーズにはたくさんの本があります。
でも、一推しはこの「アフリカゆき」。
シリーズ第一作です。
フーテンの寅さんシリーズも第一作が好きなのですけれど、ここに描かれているドリトル先生は本当に素敵でおちゃめ。物語も自由で面白い。
ドリトル先生シリーズは、だんだん内省的というか重厚になってゆく気がするんですよね。フーテンの寅さんもそう。ばかばかしさがだんだん減ってゆく。
ぼくは夏目漱石では「坊ちゃん」が一番好きですけれど、それに通ずるところがあると思います。作者がまだ若く、自由なんですよね。
そういえばトーベヤンソンのムーミンシリーズも「彗星」が一番好きかな。「ムーミンパパの思い出」が円熟。「ムーミン谷の冬」が老成だとすると、「彗星」は若々しくみずみずしいのです。
読書って、若々しい作品から歳を重ねるごとに、重厚なものに好みが移ってゆきます。自分の年齢にふさわしい内容の深さを求めるようになる。若い時の作品はちょっと軽薄な感じがしてくるんです。ところが老境にさしかかると、若い時の作品の魅力というものが再び分かるようになるんですね。未熟さと思っていたものの中にみずみずしさや自由さを見られるようになる。
「アビーロード」が一番と思っていたけれど、「ヤアヤアヤア」もいいじゃないかってなる。(分かりにくい例えですね。笑)
井伏鱒二先生の訳も良いんだよなあ。日本語も一級品です。
「アフリカゆき」は、一見深みのないばかばかしい物語のようなのですけれど、実際は稀有なる天真爛漫さなのです。
ドリトル先生シリーズは、差別表現があって図書館から追放された時期もあるとのこと。
ぼくは基本的に時代の高みに立って過去を批判するのは好きじゃないのですけれど、ドリトル先生シリーズに限って言えば、そういうことを言う人は本当に読みが浅いとも思います。
ドリトル先生は本当に公正な良い人です。だって動物も人間も差別しないんですからね。子供も大人も平等に敬意をもって接する。実に素敵な大人なんです。もしドリトル先生が現代に生きていたら、今日差別表現とされる言葉は決して使わなかったでしょう。言葉だけ美しくて中身が冷たい人間ではなく、本当の意味で愛の人であったでしょう。
ぼくはずっと、ドリトル先生のような大人になりたいなって思って生きて来ました。
虫にさえ敬語を使って話しかけるような人に。