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書評 デフォー 「ロビンソン・クルーソー」 イラストエッセイ 「読まずに死ねない本」 0025 20240911
デフォーの「ロビンソンクルーソー漂流記」。
大好きな本で、数年に一度は読み返したくなります。
無人島に漂着したロビンソンが、知恵と体力を駆使して生き延びるお話。サバイバルものと言ってもよいかも知れません。
家も服も家具も、畑も家畜を飼う牧場も全て自分で作ります。基本的には先住民の襲撃から身を守ることが最優先に考えられています。
実に用意周到なんです。
ぼくが好きなのは、家を取り囲む丸太が根を張って、巨木の生垣になるところ。外から見ると林にしか見えません。
こんな家に住みたいなーって憧れてしまいます。
孤独なロビンソンは、毎夜、聖書を読んで自分の生き方、神の摂理について考え抜きます。
そして神の恵みがいかに自分に十分であったか、自分はそれに対していかに感謝することが少なかったかを反省します。
物語としても、先住民のフライデーとの出会いと友情、そして先住民との闘い。新たな遭難者を迎えての脱出と、サスペンス要素もたっぷりあって、面白い。
単なる冒険小説と思いきや、経済史家の大塚久雄先生の愛読書でもあったのです。
マルクスが、経済の歴史は下部構造が決定すると唱えましたけれど、マックス・ウェーバーは、下部構造と同時に、その時代に暮らす人々の精神(エートス)が、あたかも羅針盤のように歴史を導くと考えました。
「プロテスタンチズムの倫理と資本主義の精神」では、アメリカの資本主義は、労働を神への奉仕と考えるプロテスタンチズムの倫理が生み出したと論じられています。
この本の訳者でもある大塚久雄先生は、ウェーバーに大いに触発され、「近代欧州経済史序説」という名著を残されました。
そこではイギリスの新興市民のエートスが大英帝国の繁栄に大きな役割を果たしたと論じられています。それは、勤労を美徳とする独立独歩の精神。王侯貴族のように領地からの収入で生きるのではなく、自らの才覚で人生を切り開き財をなすバイタリティ、そしてプロテスタンチズム。まさにその18世紀、資本主義の黎明期の新興市民のエートスを体現した人物が、ロビンソン・クルーソーだと大塚久雄先生は言うのです。
確かにそう言われてみると、ロビンソン・クルーソーという稀有な人物が、実は時代のエートスを担う典型的な人物であることが分かります。
「近代欧州経済史序説」の読者なら、とりわけクルーソーが野生の山羊を家畜化するシーンにニヤリとするでしょう。
余談ですが、岩波文庫の「ロビンソン・クルーソー」の解説は、この大塚史学に対する批判が大半なんですよ。
これはもう冒険小説の解説というより、経済史の解説みたい。 笑
秋の夜長になります。
ぜひ、この歴史的名著を紐解いてみられてはいかがでしょうか。
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