「自分軸」確立こそが人材育成の起点
最近、多くの会社がキャリア開発に力を入れています。でも、なかなか社員の心に響いていないようです。なぜでしょうか?その理由の一つに、社員の「自分軸」の弱さがあるんじゃないかと思うんです。そして、その背景には企業が社員の視野を広げることの重要性を見逃している問題があります。
自分軸と視野の広さの関係
自分軸とは、自分が何をしたいのか、何が得意なのか、何を大切にしているのかをしっかりと理解していることです。しかし、この自分軸は狭い経験や限られた環境の中だけでは確立が困難です。なぜなら:
比較対象の不足:自分の特性や価値観を理解するには、多様な人々や環境と接することで初めて、自分の「独自性」が浮かび上がってきます。
潜在的な可能性の発見:新しい経験や知識に触れることで、自分が知らなかった才能や興味を発見できる可能性が高まります。
価値観の再確認:異なる価値観や働き方に触れることで、自分が本当に大切にしたいものが明確になります。
選択肢の拡大:視野が広がることで、自分のキャリアの選択肢も広がり、より自分に合った道を選べるようになります。
つまり、視野を広げることは、自分軸を確立するための「必須条件」と言えるのです。
日本企業の現状と課題
しかし、多くの日本企業では、社員の視野を広げる機会が限られています。特に「メンバーシップ型雇用」が主流の環境では、社員が会社の外とのつながりを持ちにくい状況にあります。
リクルートの「個人のキャリアに関する日米比較 ミドル世代の状況とキャリア自律の効果」調査によると:
「将来のキャリアに対して取り組んでいることがない」と答えた人の割合:
日本47.1% vs 米国8.5%「キャリアプランの明確化と目標設定」に取り組んでいる人の割合:
日本12.0% vs 米国44.2%「ネットワークを広げてつながりを築く」取り組みをしている人の割合:
日本14.1% vs 米国39.9%
これらのデータが示すのは、日本のミドル世代の深刻な「内向き志向」です。約半数が将来のキャリアに無関心で、8割以上がキャリアプランの明確化や外部とのネットワーク構築に取り組んでいません。つまり、多くの日本人社員が自社の中だけで思考し、行動している実態が浮かび上がります。
この内向き志向こそが、視野の狭さと自分軸の弱さを生み出す根本原因です。外部との接点が少なければ、自分の可能性や価値観を相対化する機会も失われます。結果として、真の意味での自分軸を確立することが難しくなるのです。
企業に求められる取り組み
自分軸の確立を支援するため、企業は社員の視野を広げるサポートを積極的に行うべきです。具体的には:
異業種交流の促進
他業界の人々との交流会やセミナーへの参加を奨励・支援する
社外プロジェクトへの参加機会を提供する
多様な仕事経験の機会提供
計画的な社内ローテーションを実施する
副業や兼業を認め、支援する体制を整える
自己省察の時間確保
定期的な自己振り返りの時間を業務の一環として設ける
メンターシップ制度を導入し、他者からのフィードバックを得やすくする
外部研修・学習機会の提供
業界を超えた学びの場への参加を奨励・支援する
オンライン学習プラットフォームの利用を促進する
これらの取り組みを通じて、社員は多様な経験と視点を得ることができ、それが自分軸の確立につながります。
結論:視野の拡大こそが自分軸確立の鍵
企業の皆さん、社員の視野を広げることが、実は自分軸の確立に直結していることを認識してください。単に社内でのキャリア研修やキャリアカウンセリングなどを増やすだけでは不十分です。これらの取り組みは確かに重要ですが、社員の視野を広げることは難しく、これら単体では自分軸を育むことは困難です。
真に効果的な人材育成のためには、社員が会社の外の世界に触れ、多様な経験を積む機会を積極的に提供することが不可欠です。外部との接点を増やし、異なる価値観や働き方に触れることで、社員は自分自身を客観的に見つめ直し、より強固な自分軸を確立することができるのです。
今こそ、従来の人材育成の枠を超え、社員の視野を広げるための具体的な施策を検討し、実行に移す時です。それが、自分軸を持った人材を育成し、結果として組織全体の成長と競争力の向上をもたらす道筋となるのです。
企業が社員の視野拡大をサポートすることは、短期的には負担に感じるかもしれません。しかし、長期的には自律的に成長する人材の育成につながり、組織の持続的な発展を支える重要な投資となるのです。社員の視野を広げることこそが、真の意味での人材育成の起点であることを、今一度認識し、行動に移す時が来ています。