私信 二重投影 あなたは知らない
あなたは
今は昔の家柄と
家業を誇ることだけで
自己肯定感を堅固にし
余裕の体(てい)を繰り返す
そうして突然
「日本に差別が増えたのは
自身を肯定することに
乏しい人が増えたから」
と、口を衝き
「自身への肯定感が乏しい人は
差別することに飢えていて
そんな精神の不安定さを
人を差別し
人を見下し操作しながら
人より優位に立つことで
矮小な意識をごまかして
自分自身を保全する」
と、得意な分析を披露して
雄弁に而(しか)もサラリと語る
元より良家の子として生まれ
自己肯定感に満ちていて
矮小で不安定な精神など微塵もなく
ましてや差別をするなどありえない
そう自認する
あなたを言外に滲ませながら
そして
差別意識の表出は
「GHQの占領政策の結末」で
「日教組の教育改革の影響」で
「まさに戦後日本の病理の反映」と
使ってみたい言葉を並べ
糾弾すべき現在の諸悪は
「アメリカ式民主主義が導入され
皇尊(すめらみこと)を頂点とする
厳然たるヒエラルキーが否定され
尊皇精神が失われ
日本のために戦った
皇国日本の軍隊をして
自衛隊の名のもとに攻撃することを許さない
現行憲法の発布に繋がる
1945年に始まった」
と、揺るがない
1945年
あなたが誇る家柄も
ヒエラルキーの否定とともに
認められる術を失った
あなたを支える
あなたに繋がるあなたの栄誉を
昔も今も
誰もあなたに抱いていない
「高貴な身分の末裔」という妄想が
「差別者の分析」という投影となって
あなたにあなたを語らせていることを
あなたは知らない
あなたは
意に副(そ)わない人たちを
「敬慕の念無き不敬民」
「何という慠慢な日本人」
と、糾弾し
「皇室を讃えよ」
「大御心を慮(おもんばか)れ」
と、燃え熾(さか)る
皇室も
皇尊も
皇統も
讃えられたいあなたの投影
あなたの論理に従えば
あなたのために尊皇を叫ぶ
あなたこそが不敬の輩(やから)であることを
あなたは知らない
ほどなくあなたは
眠れる朝に横になる