#1254 ガランとお才ひとり、寂しさ心細さに堪えかねて……
それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。
お才はギョッとするが落ち着いて、まずご無沙汰の挨拶をして、驚く様子を見せず、余五郎が来ないことを見抜きながらも、余五郎は何処にと尋ねると、山瀬はクックッと笑い出し、野暮な!それほどの事が知れぬか!と突き返します。お才は言われるままに野暮になって、占い師ではないので、そのようなことが私に知れますものをと言います。ご用の次第を聞かせたまえと畏まると、山瀬はいよいよ笑って、かの一件がまたバレたぞと言い飛ばし、お才は黙然として俯けば、山瀬は力を入れた声で、それほどあの男がいいのかと呆れて感心されることに、お才は赤面して、このあいだのご親切を無にするではなけれど、二度の不埒、あなたには面目もござんせんと萎れます。山瀬は、イヤな男(余五郎)を甘く見過ぎて、好いた男(菊住)に過ぎた仕方は、あまりといえば義理をよそにして、念の入りたる踏みつけ。仏でも堪忍しないだろう。お才は静かにおもてをあげて、仰せられるいちいち胸にこたえて、身の不埒はいまさら言い解くべきようもなし。余五郎の思し召すままにこの身をいかようにもあそばさるべしと、やや青ざめたれど声は朗らかで少しも悪びれていません。山瀬はお才の態度を見て、恩を忘れ義理を捨てた不埒で憎い女だが殊勝さが気に入って、何処へでも行って好きな男と添えと放してやりたいが、世間に出して恥辱を曝すのは葛城の名折れとなる。思案ののち、山瀬は、今からお前の住まいはここだと言います。家財は明日運ばせよう。お才は思いのほかなる処置に呆れ、さすがに思い乱れて、生き甲斐の楽しみなきを心細く、今朝までの身を思い出し、涙が胸の内を流れます。
というところで、「後編その二十一」が終了します!
さっそく「後編その二十二」へと移りたいのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!
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