#005 最初の小説家
坪内逍遥の『小説神髄』を読もうと思ったのに、一行読んだだけで、言葉の森に迷い込み、古代中国の「諸子百家」へと辿り着いてしまいました…。
ひとまず、ここで、「諸子百家」をざっくりとまとめてみることにしました。まず、司馬談が分類した6学派は以下のようになります。
・陰陽家
陰陽説と五行説を集大成し、天文・暦学に通じ、天体の運行によって起きる現象と人間生活の関係を結びつけて説いた
・儒家
武力による覇道を批判し、徳による王道で天下を治め、仁義の道を実践し、上下秩序の弁別を説いた
・墨家
実用主義で、秩序の安定や労働・節約を通じて、人民の救済と国家経済の強化を説いた
・法家
中央集権的な統治体制を整え、信賞必罰の徹底と、厳格な法という基準と、術という臣下の管理術を用いた国家運営を説いた
・名家
自己が獲得した知覚を精密に弁別し、認識の混同を避け、名と実との一致を厳しく求めた論理学を説いた
・道家
人為性を排し、宇宙の根源的存在として「道」に則った無為自然の清浄な行ないを説いた
次に班固が追加した3学派が以下のようになります。
・縦横家
巧みな弁舌によって各国が喜ぶような政治手法を説いてまわり、あわよくば、自らが高い地位に登ろうとした者たち
・雑家
独自の学説を持たず、諸家の学説を統合・取捨・参酌し、大局観的思想を築いた者たち
・農家
耕作や炊事を万端に行なうべきであり、勤労による天下平等を主張し、これによって、物価は一定となり、偽りをする者がいなくなると主張した者たち
そして、「小説家」が追加され…
・小説家
小さな巷説を拾い集め、故事などを語り伝え、書物にして残した者たち
最後に、「兵家」が追加されます。
・兵家
戦略・戦闘方法・兵器の使用・軍事上の禁忌、また、そこから展開される政治・経済・人生を研究した者たち
どうやら、最初の「小説家」とは、「物語を作る人」ではなく「噂話や世間話を収集する人」だったみたいです。
現代だと、民俗学のフィールドワークに近いのでしょうか…
「諸子百家」の中身を確認すると、はじめの6学派は、いつの世にも通じる「思想の真理」を追求していることがわかります。その後追加された3学派は、もう少し「人間臭さ」を感じるライフスタイルという感じでしょうか。それでいくと「小説家」は、「それ必要?」と思われても仕方がないような気がします…。なんせ、当時は乱世の真っ只中ですからね…。
「おぬし、生きるか死ぬかの瀬戸際に、世間話を集めるとは何事じゃ!なにを呑気なことをやっておるのじゃ!」って感じですよね…。
「兵家」に到っては、もろ「サバイバルの実践術」ですからね…。それが今や、「孫子の兵法」として大人気のビジネス書になっているわけですから、時代のニーズとはわからないものです。当時の学者から言わせれば、兵家の考えなんて、おまけのおまけみたいなものですからね!
ちなみに、子供にも大人気のYoutubeチャンネル「中田敦彦のYouTube大学」で「諸子百家」を扱っていたので拝見したのですが、「小説家」に関しては、一言も触れていませんでした…。でも、非常に面白く解説していますので、ぜひご覧になってみてください。
古代中国の「小説」に関する話を『小説神髄』で語っているのか現時点ではわからないのですが、予習という意味で知っておいても損はないであろうと思いました。それに、なんだか少し、ハマってきてしまいました…。
実は、色々調べているうちに、中国の小説の歴史を、中国の小説家が書いた本があることを知ったのです!
それは魯迅の『中国小説史略』です!
では、また明日、近代でお会いしましょう!