#1026 味方大勝利!大慶に存じます!
それでは今日も尾崎紅葉の『二人比丘尼色懺悔』を読んでいきたいと思います。
第二章の「戦場の巻」は、庵の主人である尼の夫である浦松小四郎のはなしのようです。
暁の空に、雪景色。小沢の近くに古い梅の木。低い梢に血が滴る生首が三つ結び付けられ、赤く染まる幹の二股に寄せかける若武者……。鎧の袖の板はちぎれ、草摺の板はほつれ、胴には血のまだら。額から眉を割って斜めをいく切り傷、赤をにじむ眼、うす青む面色。水際まで寄り、氷を破って、我が顔を水鏡に映して見詰め、顔の傷を洗い、辺りをまわして肩呼吸。半身を起き上げた、そのとき、右の太腿にヤリが!骨をも貫いたか!?見れば、小具足をつけた雑兵。「下郎!推参な!」……しかし、相手は一言も返さず、矢声高く切り下ろす。太腿に刺さったヤリを抜き取り、敵の胸板めがけて投げつけるが、体をひねって、斬り掛ってきます!つけいる若武者の切っ先を受け損じ、右の肩のはずれを割りつけられますが、すかさず二の刀で細首を打ち落とします。そんなとき、手綱を激しく搔い繰る音が!はたして敵なのか……味方なのか……。やってきたのは、白栗毛の馬で駆け来る武者!褐色の鎧に、獅子頭の前立物に、金の鍬形!小四郎に気づかず通り過ぎるところを後ろから、「浦松小四郎守真なり!御不足ながら御相手仕らむ!」……武者は、こちらを篤と見て、「やー小四郎か!」、なんと武者の正体は伯父上です!伯父上に傷の治療をしてもらっていると、突然、弾丸の音が響きます!小四郎は「これより戦場へ引き返し、華々しく斬り死に致す所存!」というと、伯父上は答えます。「いい所存!いい覚悟!しかし、おん身の勢は無残な敗軍。ひとり群がる敵に斬り込んで目覚ましい働きをしたところ、急に味方の勝利になるではなし。いわば犬死……。合戦は今日一日に限るでなし。十分手当をして、英気を養ったうえで、存分の働きをしやれ!」。すると小四郎は伯父上を恨めし気に見遣ります。「死すべき時に死せざれば、死ぬにましたる恥辱。それが名を惜しみ義を重んずる武士の御意見か!なにゆえ、潔く討ち死にせよと仰せられて下さりませぬ!却って御厚意を恨めしく存じます。伯父上……さらばでござります!伯母上にもよろしく御伝言頼みあげます。改めてお詫びを致しますは、芳野殿の事……」。どうやら、芳野は、伯父上の娘で、小四郎の許嫁なのですが、御台様の縁組によって、侍女の若葉を選び、妻にしたようです。そのことを伯父上に謝ると、伯父上は泣きながら「娘は知る通りの不束者。気に入らぬはもっとも千万……」と言います。小四郎は「そりゃ伯父上、あまりでござります。許してやるとのお言葉を土産に死出の旅をいたしとうござります」。小四郎は、鬢の毛ひと束を切り払い、伯母上への形見として渡し、戦場へと赴こうとしますが、伯父上は怒気を含んだ大声で「黙り召され!ふた言目には討ち死にする!さほど命を捨てたくば、私が相手を致そう!」と言います。すると小四郎は、「勝負とは情けない。後れも致さねば恐れも致しませぬ。その槍で一思いに突き通して下さりまし!」と言って、太刀を取り直して、喉に突き立てようとします。伯父上は「早まるな!これ!」
というところで、第二章「戦場の巻」が終わります。
なんだか、比丘尼となった妻が伝え聞いてる内容といささか違うような……どういうことなんでしょうか?
さっそく第三章へと移りたいのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!