#1535 その三十四は、再び七蔵が十兵衛を呼びに行くところから…… 23 tokkodo/とっこうどう 2024年11月15日 00:22 それでは今日も幸田露伴の『五重塔』を読んでいきたいと思います。今日から「その三十四」に入ります!それでは早速読んでいきましょう!其三十四さあ十兵衞、今度は是非に来よ四の五のは云はせぬ、上人様の御召[オメシ]ぢやぞ、と七藏爺[ジジ]いきりきつて門口[カドグチ]から我鳴[ガナ]れば、十兵衞聞くより身を起して、なにあの、上人様の御召なさるとか、七藏殿それは真実[マコト]でござりまするか、嗚呼[アア]なさけ無い、何程[ドレホド]風の強ければとて頼みきつたる上人様までが、此[コノ]十兵衞の一心かけて建てたものを脆くも破壊[コワ]るゝ歟[カ]のやうに思し召されたか口惜しい、世界に我を慈悲の眼で見て下さるゝ唯一つの神とも仏ともおもふて居た上人様にも、真底[シンソコ]からは我が手腕[ウデ]たしかと思はれざりし歟[カ]、つく/″\頼母[タノモ]しげ無き世間、もう十兵衞の生き甲斐無し、たま/\当時に双[ナラビ]なき尊き智識に知られしを、是れ一生の面目[メンボク]とおもふて空[アダ]に悦びしも真[シン]に果敢無[ハカナ]き少時[シバシ]の夢、嵐の風のそよと吹けば丹誠凝らせし彼[アノ]塔も倒れやせむと疑はるゝとは、ゑゝ腹の立つ、泣きたいやうな、それほど我[オレ]は腑の無い奴か、恥をも知らぬ奴[ヤッコ]と見ゆる歟[カ]、自己[オノレ]が為[シ]たる仕事が恥辱[ハジ]を受けてものめ/\面押[ツラオシ]拭[ヌグ]ふて自己[オノレ]は生きて居るやうな男と我[オレ]は見らるゝ歟[カ]、仮令[タトエ]ば彼[アノ]塔倒れた時生きて居やうか生きたからう歟[カ]、ゑゝ口惜[クヤシ]い、腹の立つ、お浪、それほど我[オレ]が鄙[サモ]しからうか、嗚呼々々生命[イノチ]も既[モウ]いらぬ、我[ワ]が身体[カラダ]にも愛想の尽きた、此[コノ]世の中から見放された十兵衞は生きて居るだけ恥辱[ハジ]をかく苦悩[クルシミ]を受ける、ゑゝいつその事塔も倒れよ暴風雨[アラシ]も此上[コノウエ]烈しくなれ、少しなりとも彼[アノ]塔に損じの出来て呉れよかし、空吹く風も地[ツチ]打つ雨も人間[ヒト]ほど我には情無[ツレナ]からねば、塔破壊[コワ]されても倒されても悦びこそせめ恨[ウラミ]はせじ、板一枚の吹きめくられ釘一本の抜かるゝとも、味気無き世に未練はもたねば物の見事に死んで退[ノ]けて、十兵衞といふ愚魯漢[バカモノ]は自己[オノレ]が業[ワザ]の粗漏[テヌカリ]より恥辱[ハジ]を受けても、生命[イノチ]惜しさに生存[イキナガラ]へて居るやうな鄙劣[ケチ]な奴[ヤツ]では無かりしか、如是[カカル]心を有[モ]つて居しかと責めては後[アト]にて吊[トムラ]はれむ、一度はどうせ捨つる身の捨処[ステドコロ]よし捨時[ステドキ]よし、仏寺を汚[ケガ]すは恐れあれど我[ワ]が建てしもの壊[コワ]れしならば其[ソノ]場を一歩立去り得べきや、諸仏菩薩[ショブツボサツ]も御許しあれ、生雲塔の頂上[テッペン]より直ちに飛んで身を捨てむ、投ぐる五尺の皮嚢[カワブクロ]は潰[ヤブ]れて醜[ミニク]かるべきも、きたなきものを盛つては居らず、あはれ男児[オトコ]の醇粋[イッポンギ]、清浄[ショウジョウ]の血を流さむなれば愍然[フビン]ともこそ照覧あれと、おもひし事やら思はざりしや十兵衞自身も半分知らで、夢路[ユメジ]を何時[イツ]の間にか辿りし、七藏にさへ何処[ドコ]でか分れて、此所[ココ]は、おゝ、それ、その塔なり。ということで、この続きは……また明日、近代でお会いしましょう! ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する この記事が参加している募集 #読書感想文 210,152件 #日記 #毎日note #小説 #毎日更新 #毎日投稿 #読書 #読書感想文 #文学 #連続投稿 #小説家 #明治 #近代 #近代文学 #幸田露伴 #五重塔 #紅露時代 #スローリーディング 23