それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。
過ぎたことは今更嘆いてもかえらない。これも定まる因縁と諦めて、せめてものこの世の名残と余五郎のお姿を拝めれば自らの慰めになりましょう。生前にお目見え叶わなかったのは無念ですが、このたびの藤崎様のご尽力を不足がましくするのはお志を無にすること、と轟が言うと、藤崎は言葉を和らげて、たとえ病中に一度もお見舞いしなかったとて、それには事情あって、余五郎は草葉の陰から涙を流し、お艶の行く末を守っているだろう、と言います。罪なき者を罪に落として、不義の栄利を計る者は長く栄える例なし。何事も轟と藤崎に任せたまえ。悔しいも悲しいも一時のご辛抱、気を丈夫にして大手を振ってお奥へ!お艶は応接室を出て、藤崎のあとをちからなげに余之助を抱えて奥に入ると、奥方のお麻、娘の末子、紅梅を始めとして腰元十余人、重役ニ十三人が余五郎を囲んで、忍び音に語らっています。
というところで、「後編その三十九」が終了します!
さっそく「後編その四十」へと移りたいのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!