#586 第九回は、浅草の年の暮れの様子から…
それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。
今日から第九回に入ります。タイトルは「第九輛 曳出[ヒキイダ]す闕窺[カイマミ]の話」です。
「闕窺」は「垣間見」で、隙間から覗き見ることです。
今は年の暮です。浅草観音の年の市はすでに二三日のまへに橙[ダイダイ]、乾栗[カチグリ]、神馬藻[ホンダハラ]の売声[ウリゴエ]を走らかし、絵双紙屋[エゾウシヤ]ではそろ/\雑誌のビラと交代させて新板双六[シンバンスゴロク]を掛けつらね出せば今ハ市中[シチュウ]のありさまも何処やら火に焙[アブ]ッた早附木[ハヤツケギ]、勢[イキオイ]が活潑[カッパツ]になッて来ます。
浅草観音とは、浅草の浅草寺のことです。浅草寺の歳の市は、毎年12月17日から19日の間に開催されます。浅草寺の歳の市は、江戸で最も古い歴史を持ち、万治元(1659)年頃に始まったと言われています。
正月飾りや注連縄や鏡餅についてる果実は、みかんではなくダイダイです。何年も木に付いたまま落ちることなく、冬には橙色に色づき、暖かくなると青くなり、再び冬になると橙色に色づくといったように繰り返すため、ひとつの木に何代もの実が一緒になることから、繁栄の象徴として昔から縁起物とされています。
かちぐりとは、栗を乾燥させて臼でつき、殻と渋皮を取り去ったものです。「臼で搗[ツ]く」というのを古語で「搗[カ]ち」と言ったため、かちぐりは本来「搗栗」と表記されます。「搗ち」は「勝ち」に通じるため、日本古来から縁起物として出陣や勝利の祝いの席などで食べられてきました。
ホンダワラとは海藻のことです。ホンダワラの実が米俵の形をしているので「穂俵[ホダワラ]」の名がつき変化して「ほんだわら」になったそうです。稲穂と米俵になぞらえて豊作祈願の縁起物とされ、ウラジロ、ユズリハなどとともに鏡餅に飾られます。
正月に絵双六で遊ぶ習慣は江戸時代には始まっていたようで、明治になると、店や商品を宣伝する「広告絵双六」が景品として非売品で配られました。双六の内容には、ニュース性の高い「時事双六」や、機械刷りによる「教育双六」なども現われました。
早附木とは、マッチのことです。
ということで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!
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