見出し画像

#257 都合よく、継原くんが登場

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十七回は、第十六回の続きから始まります。倉瀬くんは、顔鳥から託された手紙を守山くんに渡します。妓楼で出会った顔鳥が自分の妹の可能性が出てきてビックリの守山くん。そして、先日、母と妹の人探しの広告を再び出すに至った経緯を、倉瀬くんに説明します。その内容を聞いて、いよいよ確信が強まったとみえて、倉瀬くんは、ひとっ走り行って様子を知らせて来ようかと守山くんに問いますが、短刀だけでは証拠が足りないと答えます。その後、守山くんとお常さんと園田さんと小町田くんの関係を倉瀬くんに説明すると、どうやら倉瀬くんはお常さんに会ったことがあるようで、その時、お常さんは、小町田くんと内々で話したそうにしていたというのです。それを聞いて守山くん、ハハアと思い当たるところがあったようで、第十三回で展開された、小町田くんと田の次が密会した場面の舞台裏を語ります。それによると、田の次を不憫がったお常さんが、自分が住んでいる園田さんの別宅に小町田くんを招いて、出し抜けに田の次に逢わせるセッティングをしたというのです。それを聞いて倉瀬くんは「お常さんは悪気でしたわけじゃないだろう」と言いますが、それに対して守山くんは「勿論そうだが小町田くんのためにならない」と答えます。その後、丁々発止のやりとりをしていると、守山くんのお父さんが事務所を訪れます。どうやら、守山くんのお父さんは、東京に引っ越すために上京したようで、邪魔になってはいけないと倉瀬くんは帰ろうとしますが、妹の件で父と会ってくれたまえと言って守山くんは帰してくれません。ひとりになって待たされて、議論で酔いが醒めた倉瀬くんは、ふと部屋の小窓を開けて外を見ると、なんと偶然宮賀兄弟が通りかかります。彼らによると、どうやら継原くんがコレラ病に罹ったというのです。しかし、倉瀬くんの名推理によって、ただ金がなくなって無心しているだけということがわかります。

三人が異口同音[イクドウオン]に打笑へば、倉瀬は向うを打見[ウチミ]やりて、
倉「オイオイ宮賀一寸[チョット]見るべし。アハハハハ。」
匡「なんだなんだ。」
倉「あそこへコレラ病がやつて来たぜ。アハハハハ。」
透「ヤなるほど。継原君が来た来た。」
匡「オイオイ。風評[ウワサ]をすりゃア影だ。オイオイ継原ア。」
継原はただ一人、今しもこの巷路[ミチ]へ入来[イリキタ]りて、たちまち三人と顔見合せ、
継「ヤ。これは倉瀬君。久しく御疎濶[ゴソカツ]。ここは全体だれの宅[ウチ]だネ。」
倉「守山の宅さ。今ネ君に就て奇談があったぜ。」
匡「オイオイ倉瀬。もうその話は御免だ御免だ。」
倉「ハハハハハ。何の隠すにゃア及ばんこッた。ああいふ間違ひは随分あるよ。中々愛嬌になる話だ。」
継「オイオイどういふ理窟だネ。」
倉「二階から目薬ぢゃアないが、窓からその面[カオ]をだしてのたまはくぢゃア、ちつと惜しッぽい種だけれど、仕方がない、語つてきかせん、うけたまはれッ。ドドン。オヒユヒユウッ。」
継「相かはらず元気だなア。僕の奇談たアなんだ。窓の外の立[タチ]ばなしも、相手が尤物[ユウブツ]かなんかであれば、随分下さらない方でもないが、ワキが倉瀬と来た日で見た日ぢゃ、けだし頗恐[スコオソ]といはざるを得ずだ。僕は色々の大事件があつて、今がた学校へいつたところが、外田は下宿してゐるとの事故[ユエ]わざわざこっちまでやつて来たが、外田は叔母[アント]の処[トコ]にゐるかしらん。」
匡「僕もネ今しがた尋ねたとこだが、今朝から何処[ドチラ]へか出掛てゐないヨ。」
継「オヤオヤそいつは閉口。」トいひながらいつになく悵然[シオシオ]として勢なし。倉瀬は継原の面[カオ]を眺めて、早くもその意衷[イチュウ]を推察なし

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集