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#1278 降るだけ降らねば止まぬ雨

それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。

冬になり、余五郎夫婦は熱海に冬ごもりして、一月に帰京したときお艶を訪ねますが、その後二週間も姿を見せません。息子ができてから週に一度ほど訪問していたのに、どうしたことなのか、紅梅に尋ねてみると、私も同様に案じている、じきに様子を探ってわかり次第に話をする、とのこと。ニ三日経って、紅梅がわざわざやってきて、新橋で浮かれているとのこと。お艶は妬ましい顔もせず、息子の愛らしさに慰められますが、余五郎は三月になっても音信がありません。いかによそに面白いところがあるとて、遊びに念の入りすぎ。息子の初めての誕生日も忘れて、たよりがないのは無情。血を分けた息子を愛しいとは思わないのか。友の欲しさに紅梅を訪ねると、不思議といつも留守で、また母親の看病と思うが、どうやらそうではない様子。何事も打ち明け語り合うのに、何処へ出掛けているのか、疑いが晴れません。

機好[オリヨ]く会ふたる日、余五郎の近頃の様子を問へば、其後[ソノノチ]は知らねど、相変らず新橋と、もう穿鑿[センサク]も為飽倦[シアグ]みて、構はず放[ホウ]つておきまする。此方[コチラ]でどのやうに気を揉みましても、降るだけ降らねば歇[ヤ]まぬ雨、時節を待つに覚悟して、聞いて下さんせ、此頃[コノゴロ]は慰みがてら、和歌[ウタ]の稽古を始めまして、出次手[デツイデ]に煎茶をも習ひまする。そんなことに忙[セワ]しうて、存じながらきつい御無沙汰をいたしました。必らず悪う思うて下さりますな、と事情[ワケ]を聞けば疑ふところも無く、其日[ソノヒ]はゆる/\物語[モノガタリ]して、別れて後[ノチ]のお艶の寂[サビシ]さ。仍[ナオ]余五郎は見えず、紅梅は訪[ト]ひ来[コ]ず、庭に花咲きて麗[ウララ]かなる日も、心は秋の暮[クレ]に似て、理[ワケ]も無く物思はるゝ。

また紅梅に騙されている予感がするのですが……w

というところで、「後編その三十一」が終了します。

さっそく「後編その三十二」へと移りたいのですが……

それはまた明日、近代でお会いしましょう!

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