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#232 顔鳥と守山家がだんだん近づいてきました!

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十五回は、角海老の顔鳥の座敷で、お秀さんと源さんという男女が何やらヒソヒソ話をしているところから始まります。この日はちょうど花柳病検査の日で、皆検査場へ出払って座敷はひっそりとしています。すでに検査場から帰って来た娼妓も疲れ果てている様子で、それぞれの寝相で休んでいます。お秀さんの声は、静かな楼中の戸の外に微かに漏れ出ているようで、その声を聞いてみると、何やら悪いことを企んでいるようですが、ここで、明け方にも関わらず、お客として吉住さんがまたまた登場します。妓楼たちに昨夜は何処にいたのか問われて、真偽をはぐらかそうと、新聞を読もうとしますが、お秀さんや顔鳥がそうはさせまいと邪魔をします。ところが、吉住さん、その時、偶然、その新聞に載っている人探しの広告に目が行きます。その広告とは、第四回で話題となった、上野戦争で妻・娘と生き別れになった守山くんのお父さんが出しているものでした。ところが広告の差出人には、「鈴代つね」という名前が…。「つね」といえば、かつて、小町田くんのお父さんの妾だったお常さんしか思いつかないのですが…

吉「なんだなんだ。その守山がどうしたと。」
顔「ハハハハハ。何でもないんですヨ。」
吉「ハハアおいらんの情夫[イイヒト]と言[イウ]筋か。」
秀「ハハハいい人ですヨ。上野の戦[イクサ]の時分に二十七のお神[カミ]さんのある仁[ヒト]ですから、ちょうどおいらんに似つこらしい。ハハハハ。情夫でせうヨ。ネエおいらん。」
吉「ヘン。さう利口にゃアされたくないヨ。朝ッぱらから登楼[アガ]つてくると、どうせかういふ目にあふのだ。岸辺[キシノベ]があちらで待つてるだらう。おれア今から帰るとするぞ。」
顔「オヤ何でお帰んなさるノ。」
吉「何でもいいや。おれが勝手で帰るんだ。」
秀「をかしいぢゃありませんか。どうなすッたの。」
吉「ナニどうでもないのだ。ただ帰るのだ。」
秀「オヤオヤ。変ぢゃありませんか。今おあつらへが来まさアネ。」ト二個[フタリ]がしきりに不審がりて、呆気[アッケ]にとられてとどむれども、吉住はいッかなきかず、手早く帽子を頭にかぶりて、はや廊下へと飛[トビ]いだすを、お秀はあわてて追[オイ]すがりて、引留[ヒキトド]めんとて悶着[モンチャク]せり。

顔鳥と守山家が、だんだん近づいて来ましたね!

第七回のことですが、守山くんの羽織を着た倉瀬くんがお客としてやって来た時、顔鳥は、その羽織に描かれた紋が気になったんですよね。なぜなら、母の形見の脇差の紋が、羽織の紋と同じだったからです。ということは、もしかしたら、上野戦争で生き別れた娘とは顔鳥のことで、守山くんの実の妹かもしれないのです。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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