それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。
馬場はまだ一向に酔いが回っていない様子。この人数では弾まぬと、皆来て飲めと言えば、ぞろぞろと七人座敷に込み入り、下女ふたりも呼び上げ、小気味よく猪口が飛びます。心の働かぬお艶は暇さえあればじっと考え、呼ばれて慌ただしく徳利を持つのを、余五郎は腹の内で笑います。しばらくして火を灯す時間となり、馬場は慌ててお暇しようとするが腰がふらつき、足はエックスに捻じれ、帯の間から金時計が振り子のごとく揺れ、宿の夫婦に助けられながら梯子を下りて行きます。時刻を見れば七時過ぎ。お艶は暇乞いをしますが、余五郎はまだ話すことがあると取り合わず、夕飯の相伴せよ、と手を鳴らせば女房が来て、お艶を捉えて奥の小座敷へ連れていきます。
#619でちょっとだけ説明しましたが、「山の神」とは、結婚してから何年もたち、口やかましくなった妻のことです。
「俎上[ソジョウ]の魚[ウオ]」とは、相手の思うがままにするよりしかたない、逃げ場のない状態にある者のたとえです。
ということで、この続きは……
また明日、近代でお会いしましょう!