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#1475 かすかなる眼の光りを放ち「塔を建てよ!」

それでは今日も幸田露伴の『五重塔』を読んでいきたいと思います。

当時有名な番匠「川越の源太」が請け負って作った谷中感応寺は、どこにも批判すべき点がなく少しも申し分ない。そもそもこのような大寺にしたのは誰なのか。宇陀の郎圓上人である。若くして蛍雪の苦学を積み、雲水の修行をかさね、寂静の慧剣を砥ぎ、済度の法音を響かせる老和尚。道徳高い上人が新たに規模を大きくして寺を建てようと言い給うと、このこと八方に広まって、自ら奮って四方に寄付をすすめて行く人もあり、上人の高徳を説き聞かして富豪に喜捨させる信徒もあり、諸侯から町人まで先を争い財を投じて、瞬く間に金銭が驚くほど集まり、世才の長けた者が世話人となり用人となり、万事万端執り行い立派に成就したのは小気味のよい話である。

然るに悉皆[シッカイ]成就の暁[アカツキ]、用人頭[ヨウニンガシラ]の爲右衞門[タメエモン]普請[フシン]諸入用諸雑費一切しめくゝり、手脱[テヌカ]る事なく決算したるに尚大金の剰[アマ]れるあり。此[コレ]をば如何になすべきと役僧の圓道もろとも、髪ある頭に髪無き頭突き合はせて相談したれど別に殊勝なる分別も出でず、田地を買はんか畠[ハタ]買はんか、田も畠も余るほど寄附のあれば今更また此[コノ]浄財を其様[ソノヨウ]な事に費すにも及ばじと思案にあまして、面倒なり好[ヨキ]に計[ハカ]らへと皺枯[シワガ]れたる御声にて云ひたまはんは知れてあれど、恐る/\圓道或時[アルトキ]、思[オボ]さるゝ用途[ミチ]もやと伺ひしに、塔を建てよと唯一言[タダヒトコト]云はれし限[ギ]り振り向きも為[シ]たまはず、鼈甲縁[ベッコウブチ]の大きなる眼鏡の中[ウチ]より微[カスカ]なる眼の光りを放たれて、何の経[キョウ]やら論やらを黙々と読み続けられけるが、いよ/\塔の建つに定[キマ]つて例の源太に、積り書[ガキ]出[イダ]せと圓道が命令[イイツ]けしを、知つてか知らずに歟[カ]上人様に御目通り願ひたしと、のつそりが来しは今より二月[フタツキ]程前なりし。

主役の源太がいっこうに出てきませんね!w

というところで、「其四」が終了します。

さっそく「其五」を読んでいきたいと思うのですが……

それはまた明日、近代でお会いしましょう!

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