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#255 窓から見ると宮賀兄弟

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでみたいと思います。

第十七回は、第十六回の続きから始まります。倉瀬くんは、顔鳥から託された手紙を守山くんに渡します。妓楼で出会った顔鳥が自分の妹の可能性が出てきてビックリの守山くん。そして、先日、母と妹の人探しの広告を再び出すに至った経緯を、倉瀬くんに説明します。その内容を聞いて、いよいよ確信が強まったとみえて、倉瀬くんは、ひとっ走り行って様子を知らせて来ようかと守山くんに問いますが、短刀だけでは証拠が足りないと答えます。その後、守山くんとお常さんと園田さんと小町田くんの関係を倉瀬くんに説明すると、どうやら倉瀬くんはお常さんに会ったことがあるようで、その時、お常さんは、小町田くんと内々で話したそうにしていたというのです。それを聞いて守山くん、ハハアと思い当たるところがあったようで、第十三回で展開された、小町田くんと田の次が密会した場面の舞台裏を語ります。それによると、田の次を不憫がったお常さんが、自分が住んでいる園田さんの別宅に小町田くんを招いて、出し抜けに田の次に逢わせるセッティングをしたというのです。それを聞いて倉瀬くんは「お常さんは悪気でしたわけじゃないだろう」と言いますが、それに対して守山くんは「勿論そうだが小町田くんのためにならない」と答えます。その後、丁々発止のやりとりをしていると、守山くんのお父さんが事務所を訪れます。どうやら、守山くんのお父さんは、東京に引っ越すために上京したようで、倉瀬くんは帰ろうとしますが、妹の件で父と会ってくれたまえと言って守山くんは帰してくれません。

いつそ帰らんかと心に思へど、主人に沙汰なしに立出[タチイデ]んも、あんまり書生風に過るといはれん、しかず今暫く待てゐんと、そろそろ立上りて床の間に近寄り、偽物[イカモノ]の山陽の半切[ハンセツ]を眺めつ、また仰[アオ]むいて額を見れば、こいつは真物[ホンモノ]の鉄舟居士[テッシュウコジ]なり。軸も額も見了[ミオワ]りて、その筆法をさへに諳[ソラン]じたれど、主人はこの時まで出[イデ]ても来[キタ]らず。倉瀬は五つ六つ欠伸[アクビ]をして、かたへの小窓をあけてみれば、前は横町の往来にて、稀々[マレマレ]に人も通るさまなり。天下の尤物[ユウブツ]でも通行[トオレ]かしと心で戯[タワムレ]に念じながら、ふッと目を開きて向うを見れば、何か語らひつつ歩みくるは正しくおのが塾の学友なる宮賀兄弟にてありけるゆゑ、倉瀬は急がはしく顔さしいだして、
倉「オイオイ宮賀。オイ何処[ドコ]へゆくか。」ト呼[ヨビ]かけられて匡[タダシ]は驚き、
匡「オヤ倉瀬君か。妙な処[トコ]へ来てゐるネ。」
倉「ナニ妙な処[トコロ]な事があるものか。ここア守山の事務所だア。」宮賀の弟透[トオル]は一寸[チョット]倉瀬に会釈をして
透「さうださうだ。ここは守山君の処[トコ]だ。」
匡「さうか。僕アちっともしらなかつた。」
倉「全体何処へゆくんだ。」
匡「君も大方尚[マダ]しるまいネ。継原の病気は。」
倉「エ継原が病気だッて。どうしたんだ。僕ア久しく継原を尋ねなかつたが。」
匡「僕もネ、ちっとも知[シラ]なかつたがネ、今日外田[ソトダ]の処[トコ]へ手紙がきたのさ。その手紙を見たところが、野猪[シシ]とか何とかを食つたのがあたつて、それでコレラ病にかかつたといふ……」

ということで、何だか大変な話になってきましたが…

この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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