#297 お秀という悪女
今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。
『当世書生気質」』はいよいよ最終回に突入!任那くんからの手紙を読んでいる小町田くんのところに、倉瀬くんが登場!田の次のことで話があるから、応接所へ来いと呼びつけます。行ってみると、そこにいるのは守山くん。久々に会った三人は、服装に関する議論で、桐山くんにコテンパンにやられた須河くんのことで盛り上がります。そんな無駄話をさんざんしたあと、ようやく小町田くんが、「僕に用事でもある訳ですか」と聞きます。そして、守山くんは、衝撃的な内容を告白します。何と、自分の妹は、田の次だと言うのです!そして、そのきっかけは、やはり上野戦争だというのです。降りしきる雨と、猛火の勢いの中、顔鳥の兄貴・全次郎が、三芳さんの妾のお秀と、その子・お新を連れて、混乱に乗じて逃げようとしているところから始まります。お秀は駆け逃げてる最中に、前方に倒れ、その時、お新を投げ出してしまいます。必死に奪うが如く抱きかかえ、先を走る全次郎に追いつこうとした時、全次郎の額に弾丸があたり、全次郎は亡くなってしまいます。髪も服も乱れ、息も絶え絶えの状態で逃げ延びると、なんと抱えていた我が子がお新ではありません!どうやら、転んでお新を投げ出してしまった時に、別の子供を抱え上げてしまったようなのです。とにかく、いま、自分が抱えている子供は誰の子供なのか、それを確認しなければ、お新を探し出すことはできません!臍の緒の包みを開くと、守山亮右衛門の娘・そでと書かれてます。そこから、お秀の中の天使と悪魔がささやき始めます。そして、お新の腰についてる巾着を奪い取って、置き去りにします。その後、お秀は吉原の青楼に身を沈め、そこからは悲運の連続…結婚するも夫と死別、多くの職を経て、ついに顔鳥の新造となります。
然[シカ]るに短刀の紋の事より、ふと顔鳥と身の上の談[ハナシ]に及び、(第七回の末をみるべし。)その来歴を聞くに及びて、はじめて顔鳥はそのむかし、三島前にて取違へし、我実[ウミ]の子のお新と知り、打驚[ウチオドロ]く事大方[オオカタ]ならず、その短刀の持主こそ、おそでが実の母親なるべし、御身の母はわなみなり、その事の由[ヨシ]はかやうかやうと、三島前の騒動より、谷中下の物語まで、事詳細[ツマビラカ]に語りしかば、顔鳥もヒタと惘[アキ]れて、泣きつ笑ひつ取すがりて、共に涙にくるるほどに、お秀はたちまち、よからぬ心を、この時胸の中[ウチ]に案じいだして、頻[シキリ]に顔鳥に説いていふやう、親子恙[ツツガ]なう十余年ぶりにて、かうめぐりあふは嬉しけれども、そなたばかりかわたしまでが、こんな浅ましい苦界[クガイ]の勤[ツトメ]、前借金[ゼンシャッキン]も尠[スクナ]からねば、盲亀[モウキ]の浮[ウカ]む瀬はいつの事やら、お先真暗[マックラ]にて当にはならず。その紋所[モンドコロ]の証拠ぞ幸ひ、あくまで守山の女[ムスメ]といつはり、おまへは以前通り澄しておいでな。短刀といふ証拠ばかりか、不思議な事には巾着まで、今なほわたしの手に持てゐるから、由縁[ユカリ]の人たちだに見つかつたなら、室町源氏のお茶番[チャバンイチ]ぢゃアないが、女天一[オンナテンイチ]はやさしく出来るヨ。
よそで男作って、戦争のどさくさを利用して逃げようとして、子供を見失って、別の子を捨てて、実の子に出会えたら、そのままを偽りを通せと言うんですから、お秀さんは、立派な悪女ですね!
ということで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!