#224 後頭部の顔の正体
今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。
色事の上中下の解説から始まった第十四回の舞台は、草津の湯の花を投じた駒込にある温泉。そこに二十一、二の書生と、十五ばかりの白首女が現れます。ふたりが浴場へと向かっている時、玄関には上等客がやってきます。芸妓を引き連れた田舎の紳士の団体客で早速ドンチャン騒ぎを始めます。一方その頃、浴場では、書生が脱衣所で、となりの浴衣を落とし、そこからカチャンと何かが落ちます。しかし、それに気づかず、爪先で陸湯の方へ蹴っ飛ばしてしまいます。そんな折、別の男が湯から上がろうとしています。どうやら、この男が「カチャン」の持ち主のようで、いくら探しても見つからなくて困り果てた様子。そこで、番台のおかみさんが「何か失くしましたか」と尋ねると、「メガネがなくなった」と答えます。この男も書生のようで、眼鏡探しは、番台のおかみさんに任せることにします。と、ここからが大変で、視界がぼんやりした状態で自分の部屋を探すことになり、苦労の末、何とか辿り着きます。そこで、眼鏡はどうなったのか女中に尋ねようとしますが、紳士の団体客の馬鹿騒ぎの対応で、誰も返事をしてくれません。仕方なく、見えない状態で何とか部屋に辿り着き、横になっていると、そこへ風呂から上がった女性が入って来ます!なんと男が横になったのは別の部屋で、知らない男が寝ていて女性はびっくり!ひっくり返ります!上野の気付け薬・宝丹を飲ませようとしますが、眼鏡がないため、薬ではなく、薬が入っていた蓋の方を飲ませようとしたり、水をこぼしたり、挙句には、こぼれた水を口で吸って、口移しで飲ませる始末!そして、目を覚ました女性は、自分が気を失った原因は、寝ている男の後頭部に顔があったからだというのです!それを聞いて旅館の女中は…
女中「うそをお吐[ツキ]なさいナ。」
娘「イイエほんたうだヨ。後の面は此方[コチラ]によく似てゐたヨ。」
書「やっぱりおれぢゃ。」
娘「エエ。」
書「おれはおまいさんが這入つて来た時には障子の方を背[セナ]にして寝てをつたぢゃ。おまへさんに呼[ヨバ]れてふりむいたのが真成[ホントウ]の面ぢゃ。」
女中「エ。それぢゃアあなたはお面が。」
娘「アレ 引。やっぱり二つあるヨ。」
書「コレコレ馬鹿いうてはいかん。これは面ではないワ。ソラよく見い胎毒ではげてをるんぢゃ。」(トうつむきて見せる。両人はつくづく見て)
女中「オヤオヤまるで薬[ヤ]カ。」(トいひかけてあきれてゐる。)
胎毒とは、乳幼児の頭部などにできる慢性皮膚病のことです。母胎内で受けた毒が原因であるとして、この病名が生れました。現代では、脂漏性湿疹、膿痂疹のように、アレルギー現象による素質的なものや、細菌の感染であることが知られています。
娘「オヤオヤ、さうでしたか。さうとは知らないもんだから、アタイは、……ふんとに馬鹿気さがたまらないワ。ハハハハハ。」
女中「でしたか、ハハハハハ。」書生は間[マ]が悪くてたまらねど、つきあひに、
書「アハハハハハ。」
知らない男が自分の部屋で寝ていたことは問題にしないんかい!と突っ込みたくなりますが、後頭部の顔の原因がわかってよかったですね!w
ということで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!