それでは今日も幸田露伴の『五重塔』を読んでいきたいと思います。
十兵衛が傷を負って帰った翌朝、いつものように起き出したので、お浪は驚いて「まあ滅相な、ゆるりと休むでおいでなされ。どうか休んでいてくだされ。お湯ももうじき沸きますので、うがいも手水も私がしてあげましょう」。十兵衛笑って、「病人あしらいされることはない。手拭だけを絞ってもらえばひとりで洗ったほうがいい気持ちじゃ」。お浪は呆れて案ずるが、十兵衛は少しも頓着せず、朝飯を終わって立ち上がり着替えをするのを、お浪は「とんでもないこと、どこへ行くのです。じっとしていよ、からだを使うなというお医者様の言葉。無理して感応寺に行くつもりか。たとえ行ったとしても働いてはいけません。わたしがちょっとひとっ走り、お上人様にお目にかかって、三日四日の養生を直々に願ってきましょう。さあこれを着て家にひっこみ、せめて傷口がくっつくまで落ち着いていてくだされ」。十兵衛は「余計な世話を焼かずともよい。これはいらぬ」と右手ではねのけます。
雨垂拍子とは、拍子が雨だれのように一定の間隔であることから、物事の進行がとぎれがちで、はかどらないことをいいます。
辰の刻は午前八時頃のことです。時刻に関しては#147でちょっとだけ紹介しています。
というところで、「その三十」が終了します。
さっそく「その三十一」を読んでいきたいと思うのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!