それでは今日も幸田露伴の『五重塔』を読んでいきたいと思います。
襟のしるしの字さえ朧げな半纏を着て、古い股引を穿いて、髪は埃にまみれて、顔は日に焼けて品格なき風采の男が、うろうろのそのそと感応寺の大門に入ろうとすると、門番が「何者ぞ!」と質します。男は、腰を屈めて馬鹿丁寧に、「大工の十兵衛と申しまする。御普請につきましてお願いに出ました」。門番は、源太が弟子を遣わしたのだろうと通します。用人の為右衛門が立ち出で、「見慣れぬ棟梁、何の用事でみえられた」。「わたくしは大工の十兵衛と申す者、上人様のお目にかかりお願いをいたしたい事のあってまいりました、どうぞお取次くだされまし」。「ならぬ、ならぬ、上人様は俗用にお関わりはなされぬ。願いというは何か知らねどいうてみよ」。
というところで「その五」が終了します。
さっそく「その六」を読んでいきたいと思うのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!