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#567 学生から人力車夫へ変身する力造さん

それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。

昼間は学生、夜は人力車夫の力造さんですが、同級生は、力造さんが人力車夫をしていることを知りません。薄々感づいているのは、下宿屋の主人で、どうやら、風の便りでそのことを知ったようです。品行が良く、下宿料を滞納しない力造さんが、夜な夜な働いていることを知って、ますます尊く思い、下宿料を安くしてやりたいとも思い始めます。

この下宿屋は本郷弓町[ホンゴウユミチョウ]にあッて力造はいつでも夜宿[ヨルヤド]を立出[タチイ]でる時には書生風で、それから人に悟られぬため芝辺[ヘン]八丁堀辺[ヘン]などへ出掛け、そこにある馴染[ナジミ]の車宿[クルマヤド]で服をあらため、さて車夫となるのです。

車宿とは、車夫を雇っておき、人力車や荷車で運送することを業とする家のことです。

本郷弓町は、1872(明治5)年、江戸の武家地を収公して起立した町丁で、そもそもは、江戸城の鬼門にあたるため、御弓組与力同心六組の組屋敷として毎日的場で弓を射させていたことから、「本郷御弓町」と称したのが始まりです。1965(昭和40)年4月1日、現在の本郷一丁目・二丁目に編入となり消滅しました。

本郷一丁目から芝まで移動するって、現在の301号線をまっすぐ下っても、なかなかの距離ですよ!

が雑誌や書物は始終携えて間[ヒマ]があれば読むことが多くあります。その志[ココロ]の殊勝さには車宿の親方さへ感服して歯代[ハダイ]を安くさせたほどです。

歯代とは、人力車の借用賃のことです。

前回学校で朋友と一寸[チョット]言合[イイア]ッたのち五六日です、やはり其日[ソノヒ]も昼間学校へ行ッて、それから夜[ヨル]車を引きに牛込辺[ヘン]の車宿へ出掛け、暫時[ザンジ]其処[ソコ]で持ッて来た法律雑誌を読んで居る内に直傍[スグソバ]の近処[キンジョ]の家から頼まれました。丁度[チョウド]其処[ソコ]には力造の外[ホカ]たれも居ませんでしたから直[スグ]に身支度をし、見掛[ミカ]けた本をば何心[ナニゴコロ]なく車の隅[スミ]に置いて直[スグ]に頼まれた家へ車を持ッて行[ユ]きました。
月は今夜ハ有りませんが、まだ暮れたばかりですから人顔[ヒトガオ]も朧[オボロ]ながら見えます。風は例のとほり身を鱠[ナマス]にするやうです。

「身を鱠にする」とは、鱠の酢漬けのように、「身を切り刻まれる」という意味です。

大地は灰色に凝固[コリカタ]まッてさば/\と乾燥[カワキ]果て今凍[コオ]る支度を急いで居る霜解[シモドケ]がわづかに水気[スイキ]を見せて居ます。両側は町屋で四五軒は夜店[ヨミセ]を張ッて居ますが大抵は戸を下[オロ]して居ます。

というところで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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