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#553 ようやく主人公と、その名前がわかります

それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。

第二回は、第一回の続きから始まります。寒空のした、夜中に三人の車夫が客待ちをしています。年上の二人が先に帰ってしまい、一人残された年下の車夫のところにお客がやってきます。ひたすら一目散に走って、お客を家まで届けると、門から二人の女性が出てきます。一人は阿梅[オウメ]という女性で、お客の妹のようで、その色白の丸顔を、車夫はもっと見たいと思います。もう一人は雪という名の下女のようで、二人は兄の土産を遠慮して帰ってしまいます。お客が家に入ると、代わりに下女が出てきて、多めの運賃をくれます。普段なら多すぎる分を返す性格ですが、今日は数えもせず、ふところに収めます。上野の鐘が十時を打った頃、車夫は、先ほどの阿梅のことを思い浮かべます。

この若者はやはり名も車[クルマ]と似通[ニヨ]ッて居る来間力造[クルマリキゾウ]といふ者で、この時年齢[トシゴロ]は廿四とか東山道[トウサンドウ]の出生[ウマレ]です。

やはり、この車夫が主人公なんですね!名前も、ようやくわかりましたね!w

東北の製造かも知れません、はじめは声も鼻へ抜けたらしう厶[ゴザ]います。今は抜ける体[テイ]は更[サラ]にありませんが、東京辺[トウキョウヘン]で「は」と用ゐる処[トコロ]へ「が」と用ゐ、また「が」とつかふ処[トコロ]へ「は」とつかふ語癖[コトバグセ]があッて、すなはち「義経は頼朝の弟だ」といふのをわざ/\「義経が頼朝の弟だ」と言ひます。言語[コトバ]の調子のわるいのは早く直るものですが、語法の違ッて居るのは中々なほらぬものですから、自然この力造が猶この変体をもッて居るのも仕方ありません。が、とにかく、それ一ツでその身が東北うまれだと知れます。
その外[ホカ]に鮭が好[スキ]、大口魚[タラ]が好き、胡桃が好き、騎馬が好き、そしてまた寒気[サムキ]には恐れぬ工合[グアイ]、要するに氷すべりの遊戯[アソビ]に筋骨を鍛へさせたやうです。
顔はいはゆる痩形[ヤセガタ]で、色が浅黒い中に桃色を帯びて居る有様[アリサマ]、健康の度を測る尺度[モノサシ]があらはれて居ます。どのやうな活計[クラシ]をして居たのか、兎[ト]に角[カク]骨の関節[フシブシ]も松の瘤[コブ]のやうに固まッて、そのくせ一体の発育もかよわくは有りません。是[コレ]と言ッて事々[コトゴト]しく述立[ノベタ]てるほどの顔形[カオカタチ]でもありませんが、しかし一言[ヒトコト]「するどい」と形容すれば不完全ながらまづ形容が出来て居ます。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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