#1233 真っ向より水を浴びせられ逃げる伝内
それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。
新聞で話題となっていることを知らないお才は、昼過ぎから華の師匠のところへ出掛けます。伝内はすぐにあとを追います。師匠の家の門に来てみるも、無用の他人であるため踏み込みかねて当惑します。裏口を尋ね、板塀に内を覗く穴がないかと探すが見当たらず、片耳を塀につけて、話し声が聞こえないかと息をつめますが、花ばさみの音がするのみ。立つこと一時間にわたり格別変わりたる様子はないが、お才の聞き慣れている咳払いが聞こえます。伝内が額の汗を拭いながら耳をたてていると、後ろの路地から菊住がやってきます。家を窺う男を見て、菊住はぎょっとして傘を開いて後ろ姿を隠して路地を駈け出ます。そのとき木戸の錠を外す音がして伝内がびっくりします。出て来た老女に何の用かと尋ねられたので、山田という家はござりませぬかと問い、そのような家はござりませぬと言われます。その後、老女は引っ込むことなく、伝内が路地を出る頃にもう居るまいと振り返るとまだいます。伝内はこのまま帰り難く、少し経ってまた忍び行こうと氷水屋に腰をかけて時刻をはかります。菊住は正門へまわって玄関から入り、主を呼び出し裏の様子を知らせます。主は余五郎の回し者とは気づかず、今夜を狙う窃盗の類かと思います。主はお才に告げますが、少しも気に留めません。戸には錠をかけて、お才と菊住を二階へ案内し、主は座敷で番をします。伝内は、氷を頬張りながら、濡れ手拭を頭に載せ、そろりと忍び寄れば、主は人の足音を聞き定め、水を柄杓にすくって、十二三杯立て続けに塀の外に浴びせます。伝内は頭の上を越す水を眺め、裾がわずかに濡れるのみで、首を縮めています。
というところで、「後編その十三」が終わります!
さっそく「後編その十四」へと移りたいのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!
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