それでは今日も幸田露伴の『五重塔』を読んでいきたいと思います。
源太が怒って帰ったあと、茫然としている夫の顔をのぞいて溜息つくお浪。「親方様があれほど言ってくださり、一緒に仕事したとして恥にはなるまいに、つまらぬ意地を張って、誰が感心なと褒めるのか。親方様のご料簡につけば、親方の心持もよく、お前の名も上り、三方みな良いのに、なぜその気になれぬのか。よく思案して親方様の意見に従って下されぬか。謝って謝って謝りぬいたら親方様もいつまでたっても怒ってばかりもいられまい。親方様の言われたとおりにしてみる気になられぬか」。「ああもう言うてくれぬな!五重塔とも言うてくれぬな!恩知らずとも、人情なしとも言われよう。いまさらなんとも是非がない。しかし、お前の言うように思案を変えるのはどうしてもイヤ。仕事に手下を使おうが助言は頼むまい」。
「桝組」とは、寺院建築でみられる、柱の上部で、斗[マス]と肘木[ヒジキ]とを組み合わせて深い軒を支えるしくみのことです。「椽配り」とは、垂木を一定の間隔で配置することです。
寄生木は、ほかの樹木に寄生して生長する木のことです。
「灯花」とは「丁子頭[チョウジガシラ]」の略で、灯心の燃えさしの頭にできる、チョウジの実のような丸いかたまりのことです。
というところで、「その十八」が終了します。
さっそく「その十九」を読んでいきたいと思うのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!