それでは今日も幸田露伴の『風流佛』を読んでいきたいと思います。
七蔵に百両を払ってお辰を宿屋の養女とした珠運。ここで数日逗留しますが、奈良を思い起こし空しく遊んでいるべきあらずと旅支度を整えます。それを見て宿屋の亭主が呆れます。「これはこれは、婚礼も済まぬに」「はて、誰の婚礼」「知れた事、お辰が」「誰と」「あなたじゃなければ誰と」珠運赤面し「ご亭主こそ冗談はおきたまえ。お辰様を愛しい思うが女房にしようとは一厘も思っていない。旅の者に女房授けられては甚だ迷惑」。「ははは何の迷惑。お辰を女房にもって奈良へでも京へでも連れ立って行きゃれ」。「お辰を妻にと思ったことはない。一生にひとつ作意の仏体を刻みたいという望みがある身、どうやって今から妻を持つのか」。お辰にも「恩を枷にお前を娶ろうとする賤しい心は露ほども持っていない」という内容を置手紙にしたため、再び旅へと出ます。二里ほど歩くと珠運様と呼ぶ声、しかし振り向いても誰もいません。三里ほど歩くと、袂をつかむ様子、しかし、やはり人はいません。むこうから夫婦連れが面白そうに語らい行くのを見て
、お辰と話したくなって一間ばかり戻りますが、愚かなりと半町歩き、はては片足進んで片足戻る始末、自分ながら訳がわかりません。珠運は旅路で風邪をひきます。二日ばかり苦しんでいると、宿屋の亭主とお辰が尋ね来て、亀屋に引き取られます。お辰の寝ずの番で看病と平癒祈願を行ない、ひと月かかって快方に向かうと、珠運はお辰の手をとって、部屋に入り長らく語らいます。出てきたお辰の耳は赤くなっています。
「蝶の折り様」とは、婚礼のときに飾り付ける「男蝶[オチョウ]・女蝶[メチョウ]」という雌雄の蝶を模した折り紙のことです。銚子のふたなどに飾り付けます。
「一筆啓上仕候」は男子の手紙の書き出しに用います。「不悉」は手紙の終わりに用いる語です。
というところで、「第六回」が終了します。
さっそく「第七回」を読んでいきたいと思うのですが……
それはまた明日、近代でお会いしましょう!