#300 世の中みんなそんなもんさ!
今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。
『当世書生気質」』はいよいよ最終回に突入!任那くんからの手紙を読んでいる小町田くんのところに、倉瀬くんが登場!田の次のことで話があるから、応接所へ来いと呼びつけます。行ってみると、そこにいるのは守山くん。久々に会った三人は、服装に関する議論で、桐山くんにコテンパンにやられた須河くんのことで盛り上がります。そんな無駄話をさんざんしたあと、ようやく小町田くんが、「僕に用事でもある訳ですか」と聞きます。そして、守山くんは、衝撃的な内容を告白します。何と、自分の妹は、田の次だと言うのです!そして、そのきっかけは、やはり上野戦争だというのです。降りしきる雨と、猛火の勢いの中、顔鳥の兄貴・全次郎が、三芳さんの妾のお秀と、その子・お新を連れて、混乱に乗じて逃げようとしているところから始まります。お秀は駆け逃げてる最中に、前方に倒れ、その時、お新を投げ出してしまいます。必死に奪うが如く抱きかかえ、先を走る全次郎に追いつこうとした時、全次郎の額に弾丸があたり、全次郎は亡くなってしまいます。髪も服も乱れ、息も絶え絶えの状態で逃げ延びると、なんと抱えていた我が子がお新ではありません!どうやら、転んでお新を投げ出してしまった時に、別の子供を抱え上げてしまったようなのです。とにかく、いま、自分が抱えている子供は誰の子供なのか、それを確認しなければ、お新を探し出すことはできません!臍の緒の包みを開くと、守山亮右衛門の娘・そでと書かれてます。そこから、お秀の中の天使と悪魔がささやき始めます。そして、お新の腰についてる巾着を奪い取って、置き去りにします。その後、お秀は吉原の青楼に身を沈め、そこからは悲運の連続…結婚するも夫と死別、多くの職を経て、ついに顔鳥の新造となります。そして、顔鳥の来歴を聞き、顔鳥こそが自分の子供であることがわかり、互いに涙。ところが、お秀は、ここでよからぬことを考えます。顔鳥は自身が持っている短刀の家紋(守山家)の出であると勘違いしているわけですが、そのまま守山家の娘として通そうと提案するのです。この話をこっそり聞いていたのが源作さんで、どう考えても、お秀さんが間違えて拾った女の子は田の次で違いない!そこで、源作さんはお秀を強請り、計画に乗ろうとしますが、心を改め、田の次に真実を告げ、お秀の悪事はバレて、第18回の顛末となるわけです。と、ここまでの話を小町田くんに説明した守山くん…
車はやがて守山が事務所の前にぞ着[ツキ]たりける。友芳は倉瀬と小町田を伴ひ、奥の一間にうち通れば、書生は急がはしく出迎[イデムカ]へて、火鉢、煙草盆など持いでたり。
友「親父はまだ参りませんか。」
書生「只今一寸[チョット]用をたしてくると被仰[オッシャ]つて、お出掛になりました。」
友「左様[サヨウ]ですか。……それぢゃア両君、マアお茶でも。……お茶を早く。」
書生「かしこまりました。」(トたつてゆく。)小町田は友芳に向ひ、
小「只今のお話は、実に思ひ寄らん事ばかりで、何だがincredibleな(信じがたい)位ですが、……どうも奇な事があつたものですネ。……それぢゃア君のマザアは、その折には矢張[ヤッパリ]谷中の方へお逃なすつた訳ですネ。」
友「思ふに母の方ぢゃア、子を取違へた事に気がついたので、お秀のあとを追ふつもりで、怕[コワ]い恐しいも忘れ果[ハテ]て、後を慕つたのかもしれませんヨ。」
小「アノ田の次、イヤお芳さんの身の上の事は、王子で逢つた時に聞ましたが、君にそのやうな関係があらうとは、今日が今までも知らないでゐた。ソラいつか君に向つて僕がconfess[コンフヘッス](懺悔ばなし)した時なんぞも、委[クワ]しくお芳さんの履歴をのべたが、君も気がつかねば僕もしらず」
友「世の中の事は皆[ミ]ンなそんなもんさ。鼻の前[サキ]にぶらついてゐても、わからん時にゃアわからないものだ。」
ということで、このつづきは…
また明日、近代でお会いしましょう!