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#286 『当世書生気質』最大の謎
今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。
第十九回は、小町田くんの部屋を、宮賀くんが訪ねるところから始まります。イギリスのオックスフォードに留学した任那くんから手紙が届いたようで、それを小町田くんが読み上げます。そこには、日本とイギリスの比較、かつてのイギリスの大学の状況などが記され、現在のオックスフォードの成り立ちの参考にと、いくつかの小説を、小町田くん達に送ります。そして、手紙の内容は、体操と講学の並立は可能か、という話におよび…
オックスホードの大学に於ては、現今体操も穏当[モデレイト]に相成候[アイナリソロ]故、この注意も不要に候へども、我国の学校家などは多少参考して宜敷[ヨロシキ]事と存候[ゾンジソロ]。畢竟[ヒッキョウ]ずるに体操の盛[サカン]に過るは害にもなり益にもなり候。害とは何ぞや、動作おのづから麁暴[ソボウ]に流れて、学生の気象荒々しくなり、折々街頭にて争闘などを引起し候事なり。Town[タウン](町人[マチビト])とGown[ガウン](学生[ナガソデ])との喧嘩はあまり下さらぬものにて候。利とは何ぞや。五感の鋭利に過る者を鈍くし、架空の想像をおさふる事これなり。神経の過敏に過るを防ぐは、体操より外[ホカ]に良法無之[コレナク]と存候。加之[シカノミナラズ]身体強堅[キョウケン]になりて、精神の作用を佐[タス]くるの大益[ダイエキ]あり、我国の学生の如きは、従前体操を怠りしが故に、顔色[ガンショク]どれもこれも憔悴[ショウスイ]して、宛然[サナガラ]幽霊を見るが如し。この大学の学生の如きは、今日といへども遥[ハルカ]に我国の学生と異なり、肥満[コエフト]り脂[アブラ]みちて、いかさま強さうに見受られ候。」
宮「実に任那は筆まめだネエ。くだらん事まで細々[コマゴマ]書いてよこすぢゃアないか。」
小「ヤレヤレまだ中々長いぞ。これからあとにはどんな事が書いてあるか。」
宮「それからが可笑[オカシ]いヨ。日本[ニッポン]の学校を頻[シキリ]に称揚[ホメ]てネ。随分オックスホードを凌駕[リョウガ]する事もできる。甚だhopeful[ホープフル](末たのもしい)な組織[クミタテ]だから、十分悪い所を改良して、世界の最良大学にするがいい。その改良の点は云々[コレコレ]だ。」ト例の得意の達筆で以て、書いた事書いた事。
小「相替らずいたづら書[ガキ]の空論だらう。しかしともかくも読んでみよう。」ト読つづけんとなす折から、障子越[ショウジゴシ]に、
倉瀬蓮作「オイ。小町田急用だ急用だ。木戸までぢゃアない。応接所まで、急用々々。」
この段いまだ尽さず即ち第二十回につづく。
ということで、第十九回が終わります。
一体、この第十九回は何だったのでしょうか!
なぜ、最終回の前に、こんな話を挟んだのでしょうか!
その意味は、最終回を読んだら、わかるのでしょうか?
ということで、いよいよ『当世書生気質』は、いよいよ最終回の第二十回へと入るわけですが…
それはまた明日、近代でお会いしましょう!