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#577 老女の意味深な言い間違い

それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。

第六回は、ある家の居間の様子から始まります。かなり古びた家の居間には、おそらく船宿から出た売り物を入札して得た、大きく立派な長火鉢があります。その火鉢にかかっている鉄瓶は、いつかの工芸共進会に出ていた代物のようです。置いてある手拭いは、近所の呉服屋の開店の景品のようです。そんな家には、老人夫婦と、お雪という娘がおり、もう一人の娘の帰りを待っているようです。そこに帰ってきたのが、第五回で力造さんの人力車に乗った娘で、名前をお久米と言います。お久米さんは、帰りの途中で拾った迷子の女の子お喜代ちゃんを連れて帰ってきました。これからお喜代ちゃんを送り届けに行くから一緒についてきてくれないかと、お雪に言って出かけようとすると、お喜代ちゃんの手には一冊の雑誌があります。

「おや何、それは」。
「車の上にあッたの」。
「車の上に?御見[オミ]せ、どれ」。
見ればこれは法律雑誌で、其処[ソコ]に来間力造と書いてあッて、猶[ナオ]中を見れば中の論文に色々な面白い評が鉛筆で加へてあります。
が、別に阿久米[オクメ]は何[ナニ]とも思ひません。「わるいことを為[ス]るよ、喜代[キイ]ちやんも。大方[オオカタ]あの車へ妾[アタシ]たちの前に乗ッた人が置忘[オキワス]れたものだらうに」。
しかし、また不図[フト]考附[カンガエツ]いたのは阿喜代[オキヨ]が前に例の車夫を来間さんに似て居る」と言ッたことです。「もしやそンなら此[コノ]雑誌は」。
左様[ソウ]考へれば吃驚[ビックリ]しました。
「さッきの車夫[クルマヤ]さんの名は、喜代ちやん、御前[オマエ]何とか言ッたッけね」。
「あゝ来間さんかえ」。
「おゝ来間﹆それなら名ハ?」
「名ハ知らない」。
不審です、意外です﹆更に色々な疑問がこみあげて来ます。
「御前の家[ウチ]に下宿して居る人?」
「あゝ来間さんてエのは」。
「何だえ、人品[ヒトガラ]ハ?」
「何」。
「書生かえ、車夫かえ」。
「うゝん、書生」。
はて不思議﹆車夫が実[マコト]か書生がまことか。さア分解[ワカ]らなく為[ナ]ッて来ました。何か深く考へて居るやうでしたが、その内に、あゝ又[マタ]意外と(たゞ読者と作者とばかりに)斯[コ]う老女が声を掛けました「阿梅[オウメ]、否[イヤ]さ、阿久米[オクメ]、早く喜代[キイ]ちやんを…どうしたのだねエ」。

なんですか!この意味深な言い間違えは!w

まさか、第二回で力造さんが気になった女性の阿梅さんと、ここで繋がるのでしょうか!そういえば、あの時、阿梅さんが下女を連れて兄の家を出る時、兄が下女のことを、雪と呼んでいたんですよねぇ。

と、ここで第六回が終了します。

第六回はちょっと短かったですね。

さっそく、第七回へと移りたいのですが…

それはまた明日、近代でお会いしましょう!

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