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#283 135年後の日本から、任那くんに伝えたいこと

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十九回は、小町田くんの部屋を、宮賀くんが訪ねるところから始まります。イギリスのオックスフォードに留学した任那くんから手紙が届いたようで、それを小町田くんが読み上げます。

因云[チナミニイウ]。この手紙の文章は横文[オウブン]のはずなれども、読者のために煩[ワズラ]はしからむと思ひて、故意[ワザ]となだらかに意訳なしたり。読人[ヨムヒト]その心あるべし。
「(上略)想ふに東洋の文明と、西洋の文明と、その度の相異[アイコト]なる所以[ユエン]のものは、全く進化の理の然[シカ]らしめし所[トコロ]なり。今にして徒[イタズラ]にこれを歎くは、親の癩病[ライビョウ]を遺伝したる男が、他人の無病なるを羨[ウラヤ]むにひとしく、まことに詮なきの限[カギリ]といふべし。ただ我[ワガ]将来に希望すべきは、彼が長を採[ト]りて我[ワガ]短を補ひ、一日も早く彼に追[オイ]つき、肩をならぶるやう致したき事なり。」

当時は、ハンセン病が遺伝によるものという誤った知識が広まっていたんですね…

宮「ハハハ。相替[アイカワ]らず剽軽[ヒョウキン]な議論だネ。」
「されば、大学の組織の如[ゴト]きも、匆卒[ソウソツ]今日[コンニチ]の有様を見れば、まことに羨[ウラヤ]むべく、尊むべく、さながら我国の大学などとは、まるで品柄[シナガラ]が異なれるが如く、非常に立派さうに見らるれども、また退[シリゾ]いて考ふれば、英[エイ]に今日[コンニチ]の大学あるは、多年幾般[イクハン]の変遷を経[ヘ]て、つひに今日に至りしものにて、決して造化翁[ゾウカオウ]が依怙贔屓にて、突然この地にのみ好大学[コウダイガク]を造りだせし訳[ワケ]にてはなし。」
小「ハハハ。例の如く馬鹿をいつてる。」
「我[ワガ]東京の学校の如きも、今より二、三十の年数を経なば、恐らくこの国の大学にも優れる善美の大学となりなん事敢て疑ふには及ばざるなり。我東京の学生は、柔弱[ジュウジャク]にあらざれば麁暴[ソボウ]、懶惰[ランダ]にあらざれば病人、あるひは花柳界にあくがれあるきて、学生の本分を誤るものあり、あるひは磊落[ライラク]を粧[ヨソオ]はんとして、軽躁[ケイソウ]過激なる振舞[フルマイ]をなすあり、瑕[キズ]なき完美なる玉の如きは、殆[ホトン]ど見いだすに由[ヨシ]なきなり。されどもこれはこれ一時の弊[ヘイ]のみ、力[ツト]めて矯正[キョウセイ]せば年経て医[イ]すべし。小子[ショウシ]近頃閑暇[カンカ]の折柄[オリカラ]、二、三の小説を繙読[ハンドク]して、オックスホード大学のむかしを知り、その変遷の著しきに驚き候[ソロ]。あるひは御存知[ゴゾンジ]かも図られねど、別封の小説幸便[コウビン]に任せ、お送り申上候[モウシアゲソロ]。御一読なされ候[ソウラ]はば自然大学のむかしも知られて、頗[スコブ]る興[キョウ]あらんとぞんじ候。

任那くん、ごめんなさい…

30年どころか、135年経っても、「瑕なき完美なる玉の如き」大学生は、この日本に存在していません!w

ということで、任那くんが送ってくれた小説に関しては…

また明日、近代でお会いしましょう!

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