#626 いよいよ『花ぐるま』も最終回に突入だぁ!
それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。
いよいよ『花ぐるま』も最終回の第十八回に入ります!タイトルは「第十八輛 曳了[ヒキオワ]る団円の話」です。
狙仙[ソセン]の横物[ヨコモン]を懸けた杉田素清の書斎に素清と阿梅[オウメ]とは何か話をして居ましたが、その筋はわかりません。たゞ阿梅の憂顔[ウレイガオ]ばかり、それがいくらか話の意味をほのめかして居るやうです。
「狙仙」とは、江戸時代後期の絵師で、猿画の名手と評判の高い、森狙仙(1747-1821)のことです。
ところへ、下女が取次[トリツギ]に来ました。襖を開けて敷居超[シキイゴシ]に名刺を一枚出しました。
阿梅がさらに取次[トリツ]いでその名刺を取上げて見れば西洋紙[セイヨウシ]の切端[キレハシ]の手製でそして署名は来間力造です。
「あら来間ッ」。
言ッたばかり兄へ手渡せば兄も見て、
「人力車夫[クルマヤ]さんが来たンだな」。
笑ひながら阿梅の顔をじろりと見てまた下女に向ひ、別の間[マ]へ通せと命じました。
阿梅はいまさら胸をとゞろかせて居ます。杉田と来間とは師弟の間柄﹆教へてもらふ人の処へ教へられる人が来るのは何も怪しくは有りません。怪しくないとハ知ッて居ます。それで、一つは胸のどきつきを隠さうとての故[コト]さらの怪訝[イブカリ]﹆ ー
「来間…あのやッぱりいつかの?」
「あゝ。御前があの婚礼の一条で泣いて居た晩、来た一件さ」。
あらましを説示[トキシメ]して杉田ハ待たせて置いた部屋へ行ッて力造に逢ひました。時候の挨拶も済みました。
「先生」。
笑ひながら淋[サミ]しさうに力造が出したこの一言[イチゴン]﹆際立ッた言方[イイカタ]ですから杉田 烟草[タバコ]を吸付けやうとする手を一先[ヒトマズ]扣[ヒカ]へました。
「御さしつかへは御座いますまいか」。
「はア?」
「今日[コンニチ]から直[スグ]」。
「何です」。杉田には分解[ワカ]りません。
「此方[コチラ]でわたくしが書生となる事が」。
ても意外な﹆だしぬけに。杉田は力造を見詰めて居ます。
「先達[センダッ]て御勧[オススメ]ゆゑ荷物をまとめて下宿屋を引払[ヒキハラ]ッて来ました、先生」。
「なんですと、荷物を…まとめて?」
「はイ」。
「いや、どうもそれは」。
「御不都合ですか」。
「不都合でもありませんが、しかし唐突でしたな」。
「御すゝめでしたからです」、
言へば理窟は言へるものゝ、もと/\力造をば奇[キ]として居る杉田ですから今すこし阿梅の婚礼一件の紛紜[ゴタゴタ]があッて些[チト]他人を置くのは不都合ですが、思切ッて竟[ツイ]に承知しました。
直[スグ]に荷を運込[ハコビコ]んで一々[イチイチ]家内[カナイ]のものに挨拶をして居る力造の姿のおもしろさ!そしてその最後阿梅とはじめて姓名を告げて挨拶をしました ー 阿梅と ー 醜婦[シュウフ]だと言はれた阿梅と ー 目と眉だけは非常に好[イ]い阿梅と。
っていうか、こんなゴリ押しみたいな感じで住み込みの書生になれるもんなんですかね?w
というところで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!
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