それでは今日も幸田露伴の『五重塔』を読んでいきたいと思います。
縁側で長火鉢にむかって話し相手もなくただひとり、三十前後の女性が座っています。鼻筋つんとして目尻キリリとあがり、洗い髪をぐるぐる丸めて色気なしのさま。しかし渋気の抜けた顔は、年増嫌いでも褒めずにはおかれない風体。
「黒文字」はクスノキ科の落葉低木のことで、アロマオイルに用いる精油がとれ、葉はお茶に使われ、枝は爪楊枝に使われます。なので、ここの黒文字とは、爪楊枝のことです。
「石尊様」は、神奈川県伊勢原市にある真言宗大覚寺派の大山寺のことです。山岳修行者が清浄な山内に修行場所を開拓するに従い山頂の磐座が「石尊権現」として祀られるようになり、江戸期には、江の島と並ぶ観光地として広く浸透しました。
ということで、この続きは……
また明日、近代でお会いしましょう!