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#1016 第二章は、戦場へと赴いた、庵の主人の夫の話のようです

それでは今日も尾崎紅葉の『二人比丘尼色懺悔』を読んでいきたいと思います。

今日から第二章の「戦場の巻」に突入します!それでは早速読んでいきましょう!

ふる雪にまがふ卯花威[ウノハナオドシ] 一声[ヒトコエ]血になく 浦松小四郎が事

甲冑を構成している小さな短冊状の板を「小札[コザネ]」といいますが、「卯花威」とは、この小札を、卯の花のように白い糸で結び合わせた鎧のことです。

高きは林か。低きは野[ノ]か。唯[タダ]一面に白く。なをチラ/\名残[ナゴリ]をふらす暁[アカツキ]の空。岡の片蔭[カタカゲ]に破れ硝子の薄氷[ウスライ]に。縁[フチ]を取[トラ]せし小沢[オザワ]近く。古[フリ]たる梅樹[ウメノキ]。下は幹を染分[ソメワ]け-上は「紅蕊[クレナイ]」を包む-雪。誰[タレ]……此[コノ]美を乱し-此美を傷[キズ]く……こは何事。低き梢に。切口[キリクチ]から血汐[チシオ]を落[オト]す生首三ツ結ひつけて。鋸[ノコギリ]に柄[エ]や附けたる……こぼれ歯[バ]の長刀[ナギナタ]の。朱[アケ]に染[ソマ]るを幹の二叉[マタ]に寄掛け。諸膝組[モロヒザクム]で雪を掬[ムス]ぶ若武者-鎧は……草摺[クサズリ]。小袖[コソデ]の下[シモ]二段を萌黄[モエギ]に威[オド]し。上を白糸[シライト]-其[ソノ]華美[ハデヤカ]さ卯花威。いかに手痛き合戦やしたる。射向[イムケ]の袖の菱縫[ヒシヌイ]の板はちぎれ。草摺の板をほつれて。下[サガ]る匂[ニオイ]の糸。

「草摺」とは、甲冑の胴から吊り下げられた、腰から太ももまでの下半身を覆い、防護するための部品です。「射向の袖」とは、弓を射る時に左を敵に向けるところから、 鎧の左側をいいます。ちなみに右側は「馬手[メテ]の袖」といいます。

胴の威毛[オドシゲ]には。血液[ノリ]斑点[マダラ]に染むる散紅葉[チリモミジ]。顱巻[ハチマキ]もなく鬢髪[ビンパツ]大童[オオワラワ]にふり乱し。額から眉を割[ワッ]て斜[ハス]に左眼[サガン]の上を行くは切疵[キリキズ]か。紫[ムラサキ]ばめる唇[クチビ]るの下に。三寸ばかりかすられて。朱[アカ]をにじむ眼[マナコ]……うす青[アオ]む面色[メンショク]。雪一口[ヒトクチ]ごとに呼吸[イキ]せはし。やがて水際[ミギワ]に居去[イザ]り寄り。氷をおし破りて。丸く砕けたる処へ首をさし伸べ。我[ワガ]顔を水鏡[ミズカガミ]に写して。暫く見詰めたりしが。やがて面[オモテ]の疵[キズ]を洗ひ。四辺[アタリ]を睨[ネメ]まはして重さうな肩呼吸[カタイキ]。雪に深く弓手[ユンデ]をついて。半身[ハンシン]起上[オキアガ]る……其時[ソノトキ]……右の股[モモ]へ……誰……鎗[ヤリ]を-草摺[クサズリ]の外[ハズ]れから……骨をも貫[ヌ]いたか。

どうやら、第二章は、戦場へと赴いた、庵の主人の夫の話のようですね!

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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