それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。
新聞で話題となっていることを知らないお才は、昼過ぎから華の師匠のところへ出掛けます。伝内はすぐにあとを追います。師匠の家の門に来てみるも、無用の他人であるため踏み込みかねて当惑します。裏口を尋ね、板塀に内を覗く穴がないかと探すが見当たらず、片耳を塀につけて、話し声が聞こえないかと息をつめますが、花ばさみの音がするのみ。立つこと一時間にわたり格別変わりたる様子はないが、お才の聞き慣れている咳払いが聞こえます。伝内が額の汗を拭いながら耳をたてていると、後ろの路地から菊住がやってきます。家を窺う男を見て、菊住はぎょっとして傘を開いて後ろ姿を隠して路地を駈け出ます。そのとき木戸の錠を外す音がして伝内がびっくりします。出て来た老女に何の用かと尋ねられたので、山田という家はござりませぬかと問い、そのような家はござりませぬと言われます。その後、老女は引っ込むことなく、伝内が路地を出る頃にもう居るまいと振り返るとまだいます。伝内はこのまま帰り難く、少し経ってまた忍び行こうと氷水屋に腰をかけて時刻をはかります。
ということで、この続きは……
また明日、近代でお会いしましょう!