それでは今日も尾崎紅葉の『二人比丘尼色懺悔』を読んでいきたいと思います。
第三章は、小四郎が、館の別室で、先の合戦の傷を癒しているところから始まります。「御気分はいかがでござります」と芳野が介抱にやってきます。すると、芳野は「おめでとうございました。御祝言あそばしましたとやら……小四郎様……女と申す者は操が大事と申しますが、その様なものでござりますか。」……御台様の侍女を選んだ男……許嫁なのに振られた女……振った男を介抱する振られた女……。小四郎は答えます。「申すも愚か。女は操を守って両夫にまみえず。忠君は二君につかえず……」。芳野は呆れ顔で「私の申したことがお気にさわりましたか。そのような心で申したのでは御座りませぬ。女は両夫にまみえずと申しますが、殿御は沢山恋人をお持ちなされてもよろしいので御座りますか」。小次郎は答えます。「武士たるものにはあるまじき振る舞いで御座る。女とて忠義は忘れてはならず」。芳野は言います。「あなたは私は左近之助の娘ということを、お忘れあそばしましたのか」。「なにゆえにそのような事を……」「なにゆえとはお情けない!左近之助の娘なら、小さい折から浦松小四郎守真の許嫁の妻では御座りませぬか!あなたは左近之助に芳野という娘があることをお忘れあそばしたので御座りましょう!あまりといえばお情けない!」。しおらしくと心を配れど、顔を見ると恋はいやましに募り、恨みはひとしお深くなります。「お主様[シュウサマ]の命だとて、お主様も人では御座りませぬか。なぜ、左近之助の娘芳野という歴とした妻があると、おっしゃってはくださりませぬ!あなたの口から、わけをお話しあそばして、ご辞退くだすったら、それを無理にとはおっしゃりなさるまい。私のような不束者はイヤにおなりあそばしたゆえ、言い訳もおっしゃらず、ご祝言なされたので御座りましょう!」
『史記』に記された、呉起の、魯への忠誠を示すための妻殺しは、「損人利己」という故事成語にもなっています。
ということで、この続きは……
また明日、近代でお会いしましょう!