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#599 なんだか重たい雰囲気があります…

それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。

ある待合の奥二階に男女二人が差し向かいに座っています。夜は11時過ぎ。ひとりは、新聞記者であり私犯法の教師である杉田先生。もうひとりは、18、9歳の女性です。

扨[サテ]も/\とは他[ヒト]の疝気[センキ]を頭痛に病む質[タチ]の人で﹆この女を一目[ヒトメ]見るや否[イナ]や「毛が啼出[ナキダ]すわ」と言ッたのハ赤い蹴出[ケダ]しの紅梅餅[コウバイモチ]、こッてり造りが大好[ダイスキ]な髯[ヒゲ]の朝臣[アソミ]の評言[ヒョウゲン]です。名に因[チナ]んだと見たは僻眼[ヒガメ]か、「かをる」といふその縁[エン]でしやう、帯留[オビドメ]の金物[カナモノ]はプラチナと純金と紫銅[シャクドウ]とを取合[トリアワ]せたこぼれ梅…実に目立ッて価値[ネウチ]のある物…して見ると嘸[サゾ]かし愛顧の御客[オキャク]も…そも/\雲の上人[ウエビト]でしやうか。

プラチナの輸入が始まったのは明治20年代といわれていますが、明治の初期の頃から高価な貴金属であることが一般的に知られていたようで、当時は主に懐中時計に使われていました。プラチナの価値は希少性だけではなく溶融の技術的な難しさにもあったようで、金工家の村松万三郎(1852-1908)が、日本で初めてプラチナの溶融に成功するのは明治24(1891)年のことです。

何か無理なことでも男が言ッたらしい有[アリ]さま、頽[クズ]れたまゝの膝を直しもせず、横に身体[カラダ]を倒し掛けて袖[ソデ]をくはへてさしうつむいて居る顔を覗込[ノゾキコ]めばやはり婦人は婦人、男子の愛を買出[カイダ]せさうな処も何処やら見えて居るやうで、それを後毛[オクレゲ]の徳分にするのも無駄、七ツ道具の庇蔭[オカゲ]はあります。
草籠形[クサカゴガタ]の鯨[クジラ]の巻煙草入[マキタバコイレ]の中からシガレットを一本取出[トリダ]してパイプへさしこみながら男はまづ声を開きました﹆ ー
「あゝ/\付けてくれる人も無いのか」。言葉の後[アト]は微笑[ホホエミ]です。
また受けるのも微笑[ホホエミ]です﹆ ー
「あの子に付けて御貰[オモラ]ひなさいましよ」。
「さうさ、この子に、ねエ」。
言ッてパイプをさしつければ ー 発矢[ハッシ]、物馴[モノナ]れた奴、粋人[スイジン]を取扱[トリアツ]かふのに物馴れた奴 ー わざと女花郎[オミナエシ]はすねました。
「おや宜[ヨ]かッた。御沢山[オタント]めしあがれ」。

なんだか、重たい雰囲気がありますね…

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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