#336 虻から蛇になったウズウズ心
今日も二葉亭四迷の『浮雲』を読んでいきたいと思います。
第二回は、文三が静岡から東京に上京する経緯から、お勢さんの生い立ちへと話が移ります。両親から可愛がられたお勢さんは、小学校に通い、お稽古も習い、ともに学問遊芸ともに飲み込みが早いため、母のお政さんは大喜び。その頃、隣に越してきた家族の娘と親しくなります。この2つ3つ年上のお姉ちゃんを、本物の姉のように慕い、お勢さんはいつも後ろを付いてくる妹のように真似をするようになります。そして、お勢さんが小学校を卒業した頃、隣家の娘はある私塾に入塾することになり、お勢さんも真似して入塾したくなりますが、両親から反対され、それでもなお「入塾出来ないなら生きている甲斐がない」とまで言って萎れ返る始末。さすがにこのお嬢様気質に両親も折れて、入塾することになります。この塾の塾頭が、気に入らない者には、チクチクと責め立てる性分のようでして、お勢さんは苛まれないように、この塾頭に取り入り、隣家の娘とは疎遠になります。見た目もすっかり変わり、当時の流行ファッションにかぶれるように。そして、この塾頭が退塾するのを機に、実家に戻ることになります。最初はよそよそしかった二人も、今回、お勢さんが実家に帰ってきたことで、何だか正月がやってきたような賑やかな心地がして、次第に、仕事中もお勢さんのことを思い続ける状態に…
お勢の帰宅した初[ハジメ]より 自分には気がつかぬでも文三の胸には虫が生[ワイ]た、なれどもその頃はまだ小さく場取[バド]らず 胸にあッても邪魔にならぬのみか そのムズムズと蠢動[ウゴメ]く時は世界中が一所[ヒトトコロ]に集る如く またこの世から極楽浄土へ往生する如く また春の日に 瓊葩綉葉[ケイハシュウヨウ]の間和気香風[カキコウフウ]の中[ウチ]に臥榻[ガトウ]を据えてその上に臥[ネ]そべり、次第に遠[トオザカ]り往[ユ]く虻[アブ]の声を聞きながら眠[ネブ]るでもなく眠[ネブ]らぬでもなくただウトウトとしているが如く 何[ナニ]とも彼[カ]とも言様[イイヨウ]なく愉快[ココロヨカ]ッたが 虫奴[ムシメ]は何時[イツ]のまにか太く逞しくなッて 「何したのじゃアないか」ト疑ッた頃には 既に「添度[ソイタイ]の蛇[ジャ]」という蛇[ヘビ]になッて這廻[ハイマワ]ッていた……
「瓊葩綉葉」は、「玉のように麗しい花と、縫い取りしたように美しい葉」という意味です。
ここまで読んでみて思うのは、やはり逍遥の『当世書生気質』の社会人バージョンという感想が拭えないなぁ〜ということですw
地の文も、『当世書生気質』を読んでいるんじゃないかという錯覚を起こすんですよねぇ〜。それぐらい、真新しさを感じられないんです。
ということで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!