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#1273 後編第三十章は、お艶がお麻のところへ伺うも、居留守をつかわれるところから……

それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。

今日から「後編その三十」に入りますよ!それでは早速読んでいきましょう!

(三十)居留守
此期[コノゴ]に迨[オヨ]びては会はで還[モド]るも本意[ホイ]無く、直[ジキ]にお帰館[カエリ]とならばお待ち申してと言入[イイイ]るれば、用人[ヨウニン]は気毒[キノドク]さうに、お帰館[カエリ]のほどは知れませねば、と玄関に幅[ハバ]をして通さず。為[セ]む方[カタ]無さに口上を遺[ノコ]して、お艶は悄々[スゴスゴ]立還[タチカエ]りぬ。
紅梅の母親大病とあるに、相識[チカヅキ]にはあらぬ人なれど、見舞ふは紅梅への友誼[ヨシミ]、と隠居所[インキョジョ]の番地を訊[タズ]ねむとて、次日[ツギノヒ]深川を訪[ト]へば、留守居[ルスイ]は下女一人にて何も知らず。此儘[コノママ]帰るも口惜[クチオシ]ければ、うろ覚えに聞きしを目的[アテ]に其町[ソノマチ]へ尋ね行[ユ]きて、知れず仕舞[ジマイ]にて亦[マタ]悄々[スゴスゴ]還[カエ]りぬ。
一日[イチニチ]おきて再び本家へ行[ユ]けば、今日も今朝からお他出[デカケ]にて、お帰りのほどは知れませぬ、と板[ハン]で摺[ス]りたるやうの口上。ちと胡乱[ウロン]には念[オモ]へど、然[サ]る顔もせず、ニ三日の中[ウチ]にまた上がりますれば、奥様へ宜しうお取次[トリツギ]を願ひまするとて還[カエ]りけるが、二日[フツカ]も留守のことの訝[イブカ]しく、大方[オオカタ]は奥方[オクガタ]の御不興[ゴフキョウ]強く、それゆゑ会ひたまはぬかと思ふほど、心細き夕[ユウベ]余五郎の来[キタ]りければ、其[ソレ]とは無しに様子を聞けば、一昨日[オトツイ]も今日もお麻の不在[ルス]といふは虚偽[ウソ]らしきに、いとヾ苦労を増して、我[ワガ]胸裏[ムネ]一つに持余[モテア]まし、忍ぶれど色に出[イ]でたるを余五郎に尤[トガ]められ、込入[コミイ]りたる事はわざと語らず、只[タダ]我身[ワガミ]の不調法[ブチョウホウ]を陳[ナラ]べて、お麻への謝罪[ワビ]を嘱[タノ]めば、それしきの事に心配すな。我[オレ]が好様[ヨキヨウ]に言うておくから、何時[イツ]なりとも遊びに行[ユ]け、と口には言へど例[イツモ]の無頓着、請合[ウケア]ふことの七分[シチブ]はお流れになる、男の気[キ]は尾[シリ]を結ばぬ糸も同じく、また放棄[ナゲヤリ]にされむかと、屹度[キット]明日奥様へおつしやつて下さりましといへば、微酔[ホロヨイ]の機嫌にて、今しがた言うておいたから、安心なものだなどゝ、洒落ばかり言うて取合[トリア]はず。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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