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#1260 あなたの息子が邪魔になりて、あなたまで憎いような言葉の端々

それでは今日も尾崎紅葉の『三人妻』を読んでいきたいと思います。

六月のなかば、神戸の分店で揉め事が起こり、余五郎はその地に赴きます。今夏は家族で興津に海水浴に行くつもりが、肝心の人が留守となり、この話は立ち消えになるが、お末が余五郎のお帰りを待つまでなしと思い立ち、明日の発足と定まります。さいわい紅梅も暇の身となり、ぜひお伴にと仰せつけられます。明日は暗いうちの一番汽車でも、今夜の最終汽車でも一刻も早く参りとう存じますと、紅梅は十三のお末よりも勇み立ち、お麻に笑われ、いろいろ支度もあれば心急かされて暇乞いしますが、まっすぐに帰らず、お艶の家に立ち寄ります。思いがけぬお出でにお艶は喜びますが、紅梅は気のない顔。今朝、本家から使いの者来て、何事かと御用を窺いに行くと、余五郎の留守を好機に興津の別荘で保養にと私を連れて行くというありがた迷惑。イヤと言えばご立腹、その返しの恐ろしさに、ありがとう存じますと明日の朝お供して興津に行くことになるが、窮屈の思いするは保養よりも寿命の毒、見込まれたが不運と諦めて、行きたくないのは山々だが、逃れられぬ義理に責められる切なさを思いやりたまえとお艶に言います。

我身[ワガミ]の事は兎も角も。若[モシ]や興津より遊びに来て見よなどゝ、奥方[オクガタ]の態々[ワザワザ]迎ひを寄来[ヨコ]さるゝ事のあらむとも、平素[ヒゴロ]讐[カタキ]のやうに思うてゐらるゝ人の、何がな思はく無しに招くべき。義理も遠慮も無ければ、其時[ソノトキ]は必らず/\お出懸[デカケ]は御無用にあそばしまし。
御前様[ゴゼンサマ]の御留守も長き事にはあらざるよしなれば、其間[ソノアイダ]は格別油断したまふな。今日も今日とて奥方[オクガタ]の貴嬢[アナタ]の噂して、聢[シカ]と明けてはいはれざりしが、兎角に余之様[ヨノサマ]が邪魔になりて、貴嬢[アナタ]まで憎いやうな言葉の端々[ハシバシ]。
今始まりたる事ではなけれど、心着[ココロヅ]きたるまゝ此事[コノコト]をお知らせ申したさに上がりました、と聞いたところは涙も堕[コボ]るべき実意[ジツイ]ぞ、鍼[ハリ]を韞[ツツ]める真綿[マワタ]なりける。

お艶、素直すぎるだろw……紅梅の言葉が巧みなのか……いやはや嫉妬とは恐ろしいものですね……

お艶はしみ/″\嬉しく、よういうて下さりました。知らるゝ通り私[ワタクシ]には兎毫[ウノケ]の頭[サキ]の露ほども悪き心はあらざれど、此[コノ]子ゆゑに思ひも寄らぬ疑ひうけて、奥方[オクガタ]の憎悪[ニクシミ]繫[カ]かる心苦[ココログルシ]さ。儘[ママ]になるものならば、割[ワッ]て御目[オメ]に懸[カ]けたき私[ワタクシ]の胸の中[ウチ]。艶[エン]をばそのやうな女と思召[オボシメ]してか。何と為[セ]ば此[コノ]身の証明[アカリ]立つべき。情[ナサケ]なきことぞと歎[ナゲ]けば、設[タト]ひ奥方[オクガタ]のどのやうに憎まるゝとも、御前様[ゴゼンサマ]だに御機嫌好[ヨ]くば、憂慮[ココロヅカイ]したまふことはあらず。されども此事[コノコト]は御前様[ゴゼンサマ]へもおほせられな。一徹[イッテツ]の御気性[ゴキショウ]なれば、其[ソノ]通りを用捨[ヨウシャ]無く奥方[オクガタ]へお小言[コゴト]あらば、いとヾ御身[オミ]の不為[フタメ]になるばかり。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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