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#580 あぁ…つれない世の中!!

それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。

第七回は迷子になったお喜代ちゃんを、お久米さんとお雪さんが家に送り届けたところから始まります。迷子になったお喜代ちゃんを人力車で拾って、一旦自分の家に戻った時、車の上にあった力造さんの法律雑誌をお喜代ちゃんがうっかり持ってきてしまったことに気付くのですが、その雑誌をお喜代ちゃんはお久米さんの家に置いてきてしまいます。力造さんの下宿屋の主人夫婦は、お喜代ちゃんの親でもあります。無事、お喜代ちゃんのことを送り届けると、お久米さんは主人夫婦に力造さんのことを尋ねます。すると、昼は書生で、夜は人力車夫をやっていることをこっそり教えてくれます。その後、お久米さんとお雪さんが家に戻ると、先日、兄の家に行った時のことを老夫婦が尋ねます。というのも、第二回で力造さんが気になったお梅さんこそ、このお久米さんのことでして、どうやら隣の家の下女と同じ名であるため、老夫婦からはお久米と呼ばれているようです。

阿梅[オウメ]の阿久米ハ静[シズカ]に唇[クチビル]をうるほして牛込へ行ッたことの子細[シサイ]を話出[ハナシダ]しました。
「牛込へまゐりましたらね、伯母[オバ]さん(後[アト]でわかります)も待ッて居らッしやいまして、それから例の話に為[ナ]りましたの」。
「例の話に為[ナ]ッて伯母さんは何[ナン]と御言[オイ]ひだッたえ」。これは老女の問[トイ]です。
「伯母さんが仰[オッシャ]るには『御久米[オクメ]、御前[オマエ]も最[モ]う年頃[トシゴロ]だし、もウ学校をも卒業して仕舞[シマ]ッたし、是[コレ]からハ相応な処[トコロ]を見附[ミツ]けて』」…微[カスカ]な声です﹆ー
「『御嫁[オヨメ]に…何[ナン]に行[ユ]かなくてハ為[ナ]らないからッて呉々[クレグレ]御前[オマエ]の御祖父[オジイ]さんや御祖母[オバア]さんから御伝言[ゴデンゴン]も有ッたから、それで今日御前を呼んだのだが、ね、…就[ツイ]ては此間[コノアイダ]も一寸[チョット]妾[アタシ]から御祖父[オジイ]さんたちに左様[ソウ]言ッて置いた、家[ウチ]の美佐雄[ミサオ]さ、あれも彼是[カレコレ]年頃だから』ッて」…
言ッたばかりです、いつか語[コトバ]は絶えて居ます。
「うん、そりやア最[モ]う私たちも、御前[オマエ]知ッてのとほり、承知の上の事さ。それで御前何と言ッた」。祖父が熱心に尋ねました。
しかしながら返辞は堰[セキ]で留[ト]まッて居ます。
「御前は何と言ッたかえ」。これは祖母です。
傍[ソバ]で相変らず毛糸を編んで居る小間[コマ]づかひの阿雪[オユキ]ハ折々[オリオリ]不審さうに眼を横に向けて阿梅の風情[フゼイ]を偸見[ヌスミミ]て居るばかり﹆ても「静かさ」…たゞ耳に附[ツ]きます、隣家[トナリ]の犬が夜半[ヨハ]の寒さに唸[ウメ]く声。
「をかしい、ね」、言ッて祖父は阿梅の顔をさしのぞけば、あゝ強面[ツレナ]い世の中!
くやしさうな阿梅の下向[シタムキ]の顔!

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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