#623 第十七回は、お梅さんが婚姻について悩むところから…
それでは今日も山田美妙の『花ぐるま』を読んでいきたいと思います。
今日から第十七回に入ります!タイトルは「第十七輛 曳出[ヒキダ]す当惑の話」です。
池のほとりの石に腰を掛けて茫然[ボウゼン]として居る心の底はどんなものでしやう ー 阿梅の。
ねたましい鴛鴦[オシドリ]は清い水の胸に身を托[タク]しておもむろに文字[モジ]を曳いてあるいて居るそのやさしさ、詩人を悩殺するところです。打続[ウチツヅ]いた日和[ヒヨリ]のうらゝかさ刃[ヤイバ]の風も刃[ハ]を鈍[ニブ]らせて日色[ヒイロ]と共に春をもよほして居るこの頃[ゴロ]、花もよほど咲いて居ます。さば/\として水際に波の痕[アト]を見せて居る捨石[ステイシ]﹆水の面[オモテ]を撫[ナ]でゝ来る風にわなゝく早咲[ハヤザキ]の菫菜[スミレ]。見る物として面白さが無くも有りませんしかし、物を思ふ身にハみなそれ/″\に感慨の本[モト]で﹆鴛鴦[オシ]を偕老[カイロウ]の比喩[タトエ]に思寄[オモイヨ]せれば、菫菜[スミレ]はまた手を引いて春野遊[ハルノアソビ]をする睦[ムツ]ましさ、その辺を心に喚出[ヨビダ]す根[モト]となります。
「どう為[シ]たら宜[イ]いだらうかな。阿父[オトッ]さんも阿母[オッカ]さんも如此[アア]ばかり言ッて居るから仕方が無い。兄[アニ]さんハ、まア妾[アタシ]を贔負[ヒイキ]して居てくれるけれども、老人[トシヨリ]といふものは我慢をば何処までも推透[オシトオ]さうといふから…あンな美佐雄なンぞを…で、兄[アニ]さんの言ふ事をも肯[キ]かずに居る。人を美佐雄の嫁に為[ナ]れッて…あンな美佐雄、男らしくも無い、柔弱[ニュウジャク]なものゝ。誰に頼んでも仕方が無ささうだ。たゞあの来間といふ人、兄[アニ]さんも大層[タイソ]褒めて居るが、今時には珍らしい心掛[ココロガケ]﹆此間[コノアイダ]の晩はじめて兄[アニ]さんが家[ウチ]へ呼込[ヨビコ]んでそれでやう/\その人力車[クルマ]を曳く仔細がわかッて…人物は何[ド]うだか分解[ワカ]らないが、しかし気象はあの人なンぞが一番」…
思進[オモイスス]んで来る内に 苦しいのは胸につかへて居る一条﹆ ー
「しかし、もウ…圧制婚姻…人を、人を美佐雄の処へ片付けるといふことに為[ナ]ッて…しかし、兄[アニ]さんから聞けば美佐雄は薫とかいふ芸妓[ゲイシャ]と馴染んで居るとか言ふことだが、またそれで親たちに勧められたにもしろ、妾[アタシ]と婚礼する事を直[スグ]に承諾したといふのも可笑[オカ]しい話。
ということで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!
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