#287 いよいよ最終回に突入だ!
今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。
今日からいよいよ最終回の第二十回に入ります!タイトルは「大団円」です!
シンプルでいいですね!w
早速、本文に参りましょう!
三脚の長腰掛[ナガコシカケ]は、凹字[オウジ]の形をなして円形[マルガタ]の古卓子[フルヅクエ]を囲繞[イニョウ]し、鉄製[クロガネセイ]の丸火鉢は卓子の真中に安置せらる。これなん某校[ソレコウ]の応援どころ、畳十[タタミト]ひらを敷[シキ]つむべき床[ユカ]を板の間となしたりしは、さすがに物なれたる主幹[カンジ]の用心、和洋両様の来訪人共[ライホウジンドモ]にその便利を感じつべし。さるほどに倉瀬蓮作は、きのふ一宵[ヒトヨ]守山友芳の家にやどりつ。今日友芳ともろともに、おのが学校に帰り来りて、守山を応接所に俟[マタ]せおきて、おのれはいそがはしく塾舎におもむき、俄[ニワカ]に小町田を呼たてしかば、粲爾は何事ぞと不審[イブカシ]みて、読かけたる手紙をかたへにさしおき、急ぎ部屋の外に立いづれば、倉瀬蓮作は待兼つつ、
倉「オイオイ小町田、何をしてるんだ。マア早く来たまへ。霊妙不可思議、珍奇的烈、前代未聞、咄咄[トツトツ]奇怪、怪しく奇[ク]しき不思議な事[ミステリイ]が、きのふ突然と持あがつたが、君にゃア浅からざる関係があるから、Mr.Moriyama[モリヤマクン]と一所に君へ知らせに来たんだ。早く応接所まで来たまへ来たまへ。」小町田は呆気[アッケ]にとられて驚きながら、
小「なんだ。また始まつたヨ。実に君は騒々[ソウゾウ]しい男だ。さうして昨夜[ユウベ]は君何処[ドコ]へ泊つた。学校にゃアゐなかつたぢゃないか。」
倉「オット意見めいたる事、御無用に候[ソロ]ッ。今日[コンニチ]の倉瀬は、呉下[ゴカ]の旧蓮作に侍[ハベ]らずッかし。それはさうと、今日君に告る事は、君の旧情婦[キュウラープ]に関する事だヨ。」
小「ハハハ。また始まつた。モウあの一件は御免だ。取消し取消し。」
倉「イイヤ、さういふ訳ぢゃアない。あの芸妓[シンガー]の身の上について実に思ひよらん事が起つた。」
小「エ。」
倉「ナニ心配するにゃア及ばんこッた。」
小「ナニサ、心配をする訳もないが、何だか君のいひ方が変だからさ。」
倉「マア応接所へくるべしくるべし。守山が先刻[サッキ]から待[マツ]てゐるから。」(ト倉瀬は小町田をともなひつつおうせつじょへいりきたれば)待兼たりける守山友芳一寸[チョット]たちあがりて会釈[エシャク]をなし、
友芳「小町田君。その後は暫[シバラ]く。」
ということで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!