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身近に潜む「小さな事件」

実は、これまで新聞が記事にしてこなかった「小さな事件」の裁判にこそ、私たち記者が目を向けるべきことが多かったのかもしれない。親子のこと、夫婦のこと、病のこと……。ふつうの暮らしのなかで、もしかしたら自分も抱えるかもしれない悩みがある。それがこじれ、犯罪につながってしまう。どうすれば、その手前で踏みとどまることができたのか。

母さんごめん、もう無理だより

母さんごめん、もう無理だ」(朝日新聞社会部 著)は、記者の方々が裁判の傍聴席から実際に傍聴した事件を記事にし、それを集めてつくられたもの。

多くの事例を読み進めていくと、日頃からニュースで大々的に取り上げられている大きな事件よりも、実際に自分にも起こりそうな「小さな事件」の方がイメージしやすく、考えさせられることがありました。

決して非日常体験ではなく、身近に潜む事件の数々。自分にあてはめて考え、どうすればその手前で踏みとどまることができるのか。

今回は、個人的に数多くの事例のなかから、特に印象に残った2つの事例を紹介します。


〇過度なストレスが原因

2人の子供を育てるシングルマザー。

他人とうまく話せず仕事を失い、生活保護を受けるようになり、病院では「パーソナリティー障害」と診断されます。次男は身の回りのお世話をしてあげないといけない発達障害を持つ。

極度のストレスを抱えながら生活していた母は、衝動的に子供に手を出してしまいます。

苦しい生活を送りながらも子供の誕生日にゲーム機を買ってあげる優しい母が、なぜ犯行に及んでしまったのか。

母自身が子供の頃に父親を自殺で亡くしている過去もあり、リストカットや薬を大量に飲むなどの行動に走ることもあったが、母になってからは感情的に子どもに手をあげることはなかったそうです。

1人で2人の子育て、過去のツライ体験。本人も裁判で話したように、周りに相談したり、病院に治療にいけばよかったのかとも思います。

とはいえ、ストレスがかかりすぎている状態は視野が狭くなり、そこまで広く考えを巡らせられるかも難しいところ。そうなってしまう前、まだ少し自分を俯瞰してとらえられる状態のときに誰かに助けを求めることが未然に防ぐ対応策だったのではないかと思いました。

非常に難しく、考えさせられる……。

〇一人で抱え込んでしまった結果

98歳の母の首に手をかけた息子の話。

息子は妻と2人の娘、両親の6人で暮らす家族。

十数年前に父親を亡くし、娘2人は結婚して家を出る。そして両ひざの骨折で歩くのが難しくなった母のために訪問介護を利用しながら生活するも、妻と母の関係が悪化し、妻が出て行ってしまう。

残された息子は母の介護に精を出すも、母のすすんでいく認知症や自身の不眠に悩まされ、うつ病と診断されてしまう。

一度は施設に入居させるも母をかわいそうだと思い、自宅に引き取ることに。そんな生活を送りながら、ついに母に手をかけてしまう。

裁判では、施設の入居やほかの人に頼らなかった理由を問われるも、年金だけではやっていけない経済的な理由と、子どもがいる娘たちには迷惑をかけることができなかったことを話した。

裁判のなかでは、母に対して償いたいという気持ちと、罪を犯してしまった今が一番苦しいと答えるところもあったそうです。

高齢化社会の日本では、介護の問題は数多くあるのではないかと思います。誰にも相談できず、独りで苦しみ抜き、衝動的ではあるものの苦渋の選択をした結果、その後もひたすら悩まされ続けることに。

介護、老後のお金、ほかの家族には迷惑をかけられない気持ち、様々な問題が山積みで、どう解決したらよかったのかがわからない難問だと思います。

息子さん本人も74歳と高齢なので、子どもさんに相談して行政などに助けを求める方法しか思い浮かばない……。

もし自分がこの立場だったらどうするのか。


ニュースで取り上げられる大きな事件の影に隠れた小さな事件。

いつ自分に迫ってくるかわからない点では、考えさせられることが多いように感じました。

今回取り上げた2件以外にもリアルな人間ドラマが書かれた本書。社会問題について真剣に考えられる一冊です。

最後までお読みいただきありがとうございました。


おしまい。

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