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<2020.3>群馬みなかみの旅②【湯宿温泉】

<前回はこちら>

 ※この記事は2020年3月の日記に加筆修正したものです。

 川古温泉を出て到着したのは「湯宿温泉」。この地こそ、長期に渡り全身痛に懊悩する私に【湯治】という知恵をくれた場所。

 様々な病院にかかり治療や投薬を試すものの、然したる効果は得られず、原因も分からぬまま。数年前、何か手立てはないものかと訪れたこの地。これまでも温泉巡り自体は何度も試してきた。
 だが、今でもハッキリ覚えている、昨日と違う身体の感覚。それ以来、この地には度々心身の不調を救われてきた。
 

 近年「湯治体験」、「2泊3日プチ湯治プラン」などを打ち出すホテル・旅館も増えてきたようだ。日本では民間療法の域を出ない治療法、だがフランスやドイツでは、温泉地での長期滞在は保険適用が通例なのだという。
 
 廃れ行く湯治文化の中、デジタル機器に四肢を縛られる日々。癒しを求める人が多いのだろう、雑誌で特集が組まれるなど少しずつ認知がされてきたようだ。温泉を愛する一人としても、業界全体が元気になるのは喜ばしい限り。

 だが、その中身を見ると首を傾げてしまうことも。
山の宿にもかかわらず刺物が並べられ、天ぷらにステーキ、スイーツまで。何とも豪華な食事。1泊2食付きで万単位の価格帯(※もちろん存在を否定しているわけではない)。これで湯治とは少々無理があるのでは・・・

 私の考える湯治。やはり療養に適した緑豊かな環境で、山の料理がメインの粗食に、消毒剤が散布されていない美味しい水。街のシンボルとなるのは共同浴場、湯元から引いた源泉は、循環されることなくかけ流しで湯船へ。

 そして、静養を求める一人客を積極的に受け入れてくれる雰囲気。ひっそりと、鄙びていて、旅情を感じる寂しげな街がよい。開湯1,200年を誇る湯宿温泉には、その面影を残す。
 
 
 15時過ぎのチェックイン。宿泊はもう常宿になった「ゆじゅく金田屋」。
【旅人宿】を謳うこの宿は、開業150年を誇り、酒と旅を愛した歌人若山牧水が泊まった部屋が「牧水の間」として展示用として残されている。

 彼も一人で訪れたように、予てより一人客を積極的に受け入れてくれる。実際にここで出会うお客さんは一人客が非常に多い。年々そのニーズは増えているとご主人。
 

 歴史を感じる外観とは裏腹に、館内は驚くほど清潔。
重度の不眠症を抱える私にとっては害虫や騒音は恐ろしい存在。選ぶ宿の条件として、泉質と同等に求める清潔さ。一方で安価な木造宿を好むという厄介な性分だが、金田屋はそのわがままに全て応えてくれる。


 数年前までは地元野菜を使用した料理も自慢だったこの宿。
現在は板長がリタイヤされ、素泊まり専用の宿となった。残念ではあったが元々は宿場町。
 隣には蕎麦屋があり、宿を出て向かいの赤谷川を渡ればうどん屋が、食には困らない。結果的に1泊6千円台となったこの宿には、これまで以上に通いやすくなった。


 チェックインを終え浴衣に着替えると本題へ。4つの無料(※入口に善意の箱があり100円を投金)共同浴場巡りの開始。右肩に手ぬぐいを掛け、小銭入れと部屋の鍵を握りしめ下駄を履き宿を出る。

 「カランコロン」と音を立て浴衣姿で石畳を闊歩。湯巡り始めて7年、少しは様になってきただろうか。どうせならいつまでも、「湯巡りが似合う男」でいたいものだ。

 「窪湯」、「小滝の湯」、「松の湯」、「竹の湯」と次々と連湯。湯元からの距離、落とす量の違いからか個性が多少異なる。地元の方もそれぞれ好みの浴場があるようだ。(※現在は疫病拡大の影響を受け地元民のみ利用可)

 最も気に入っているのは「窪湯」。加水なしで落とされる60度の源泉は、湯量調整とセルフ加水で適温に、無色透明だがなかなかのガツン系だ。
 この日は地元民3名と同浴した。「どこの宿に泊まりだい?」から会話が始まる。

 「湯宿の湯はいいだろ」
 「俺はここの湯に毎日入っているから風邪を全くひかない」
 「瀬古利彦(日本マラソン界の第一人者)は学生時代からここに来ていた」

 街の人にとっては源泉も実子同然のようだ。


 湯巡り後の食事は旅館隣の蕎麦屋「やまいち屋」で。
蕎麦やうどん、定食等のメニューが豊富で連泊客も飽きさせない。宿泊客は100円割引になるというサービス付きだ。この日はざるそばをいただく。やはり、旅には蕎麦が良く合う。


 宿に戻りまた湯に入る。脱衣所も浴室も綺麗に整備され、上品な石膏臭が室内を舞う。かつては加水により温度調整していたようだが、バルブの絞込みにより配湯量を調整することにより、100%かけ流しを実現した。

 湯の温度や量は日によって顔を変えてしまう。決して一定にはならない。開放し続ければ高温にもなり温湯にもなるため、数時間置きに検温し、配湯量を調整。手間がかかる作業だが、湯を大事に扱うが故の拘り。


 周囲には娯楽施設も何もない、ここではスマホやパソコンには極力触れず、源泉に浸かり汗を流しては、清流赤谷川の湧水で水分補給。冷え切った身体が血流を呼び戻し、少しずつ、身体が回復してきた。

 朝はモーニングサービスで「湧水コーヒー」をいただく。該博なご主人と明るい娘さんとの歓談を楽しみ、チェックアウトぎりぎりまで湯に入る。

 雪もチラついら今回の旅、冷え切った身体は帰る頃にはポカポカと温まり、大量の汗をかいたせいか顔もスッキリした印象だ。
 
 「ありがとう、いい湯でした」


 ああ、また行きたくなってきた湯宿温泉。今、家に到着したばかりなのに。

                           令和2年3月17日

金田屋の内湯 ※みなかみ町観光協会HPより拝借


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