真夏の温泉ワーケーション⑥【回復期 美食に出会う】

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　2泊お世話になったホテルを出て、3日目からはゲストハウス風の宿へと拠点を移す。ここから世間は4連休に入り、空き部屋の関係で転居を強いられた。
　  移った宿は駅から徒歩1分の好立地。こちらも海外のホテルチェーンがリノベーションした宿だった。全国展開しており、その名はよく耳にするが宿泊するのは初めて。とりあえず3泊することに。

　こちらも基本セルフスタイル。浴衣等もレンタルとなる。鍵やシーツ、枕カバーなどのリネン類も、チェックアウト時に利用者が返却ボックスに戻す。時間帯によっては見送りなどもないのかもしれない。
　
　かつては宴会場だったであろう畳部屋は、エアロバイクの様な健康器具が置かれ、別料金だがコワーキングスペースにもなっていた。チェックイン16時、チェックアウト9時と通常の旅館よりも2時間滞在時間は短い。
　
　のんびり旅行したい方にとっては忙しないだろうが、連泊の私にとってはさほど困ることもない。共同浴場まで歩いて1分、部屋にいるか浴場にいるかの違いしかない。

　このたった2時間の差、スタッフを抱える旅館業社にとっては小事が大事。ギリギリまで切り詰めるコスト、これにより一泊3千円台を実現しているのだ。
　安くなるのであれば、部屋のシーツを片付けることぐらい自分でやる。
そう言えば、以前連泊でお世話になった東北の湯治宿。ご主人と女将さんに混じり庭の草刈りを手伝ったことがある。一汁三菜湯治食の安価なプランでの滞在だったが、この日の夕食は通常プランにグレードアップされていた。　　
　東北には、まだそんな雰囲気が残っている湯治場も存在する。

　
　チェックインすると見覚えのある顔が。この方、毎日「湯元元湯」で湯治をしている人だ。直接お話することはなかったが、後に女将さんに聞いたところ定期的に埼玉から1週間ほど湯治に来るそうだ。
　きっと、多くの転院の果てに「湯治」という治療に辿り着いたのかもしれない。そう思うと親近感が湧く。

　民間療法の域を出ない温泉治療。その効能はもっと認知されてほしいと思う一方、「効かない」湯がほとんどだったりするのも実情。
　所謂循環風呂。消毒液臭漂うプール同然の湯は、本来の源泉の力が失われており、入っていても気持ちの良い物ではない。大変失礼だが、初訪前の磐梯熱海温泉も、巨大旅館が林立した観光地のイメージがあり湯には期待していなかった。
　
　だが拠点を移した駅前の格安宿、線は少し細いが100％かけ流しの源泉が落とされていた。これは勿怪の幸い。
　香りが良く、はっきりと分かるアルカリ性の美肌泉質。駅前の安価な宿だけに駄泉と思い込んでいたが、良い意味で期待を裏切られた。

　そんな磐梯熱海での湯治、日を追うごとに体調は改善されていった。不快な身体の熱も抜けて、寝苦しかった夜も快眠に堕ちる日も。

　こちらに来て3日目、それを象徴する出来事が。

　宿を移すその日、10時にホテルを出て次の宿のチェックインは16時。
磐梯熱海駅周辺には、喫茶店やカフェなど時間を潰せる店がない。車旅であれば近辺の温泉巡りなどで時間を潰すが、本旅の足は電車。共同浴場は長湯が出来ると言えど、流石に6時間は持て余す。

　そこであることを思い出した。数年前、出張で郡山に来た際、東京の超有名ラーメン店「春木屋」の支店が郡山にあることを知った（結局その時は時間の都合で行けなかった）。
　杉並区に本店を持つ東京ラーメンの代表格、「春木屋」。私は大学時代の多くの時間を杉並区で過ごしていた。幾度となく通った思い出の味。

　全身痛が出始めるとまず食欲が落ちる。投薬のためにおにぎりなどを咀嚼し、胃に膜を張る程度しか取れなくなる。グルメ番組などが映るとすぐにチャンネルを変える。何を食べても美味しいと感じなくなるのだ。
　本旅出立前、モデルナアームの症状が出て容態を崩し、明らかに食は細っていた。

　「美味しいものを食べたい」
その欲が出るだけで、一つの快復のバロメーターでもあるのだ。

　チェックアウトの後、湯元元湯で90分過ごす。その後2両編成の磐越西線に乗り15分、郡山駅へ出た。ここからまたバスに乗り、市役所前というバス停から歩くこと10分。あったあった「春木屋分店」。客はパラパラと、すぐにカウンター席に案内された。

　「ズルズルッ」
　「う、うまい」

でも、本店の方がもっと・・・

　食欲が戻ってきたのは有難かった。　

　その後、駅中のモスバーガーでPCを広げ簡単な作業。
電車に乗り、また共同浴場へ。取り過ぎた塩分、いつもより市営源泉（50度）に長く浸かり、汗で流した。

　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　令和3年7月23日

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