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源泉回顧録【新潟県 湯沢~栃尾又温泉 後編】

<前回はこちら>

※この記事は2020年6月の日記に加筆修正したものです。

  昼食を済ませ石打塩沢から更に北上。山頂にうっすら雪が残る八海山を右手に見ながら南魚沼市から魚沼市へ突入した。広遠に広がる美しき田園地帯。言わずと知れた日本一の米ブランド「魚沼産コシヒカリ」はここで育てられる。

 平成元年から令和2年まで、平成29年を除く全ての年で最高ランクの特A評価を戴冠される同米。東京のスーパーや百貨店でも見受けられるが、実はこれらには偽装品も多く、純度100%のコシヒカリは一般市場には出回らないそうだ。実際の収穫量の50倍とも言われる量が取引され、地元農家も頭を抱えているという。

 この一帯には新米時期になると米農家が出店を出し、洗米したばかりの品を、ビニールに入れて販売している姿も見られる。料金も法外な価格ではないので、見つけると必ず購入している。食べた瞬間分かるその旨さには毎回感服する。
 これまでに寄ってきた道の駅には、「皇室献上米」として平置きで並べられ、驚愕の価格で販売されていたのには驚いた。


 14時、遂に到着「栃尾又温泉 自在館」。著名人や温泉専門家からも絶大な支持を受けるこの地。元々は開湯1,200年、宿の開業100年の歴史を誇る正真正銘の湯治場だ。
 一人客が随分増えた印象だが、滞在者の多くが湯治客。チェックイン13時、チェックアウト11時と一般的な宿より長く滞在が出来る(※現在は感染対策のためチェックイン15時)。改装を重ねた館内は清潔で、想像できる湯治場の雰囲気とは一線を画す。


 部屋に荷物を置くとすぐさま源泉へ。この宿のメイン浴槽は谷底へ向かうように様に階段を100段降りた先、湯小屋「したの湯」。こちらは一つしか浴槽がないため男女が日替わり制。到着日は男性専用だったので初日は滞在時間のほとんどをここで過ごした。

 不感温度(36~37度)の放射能泉は長湯が基本。ラジウムを含む源泉は、飲んで、吸って、浸かって、じわじわと効かせる。2時間程の入浴を一晩中繰り返す。閉眼する人、眠る人、文庫本を読む人、皆地球からのエネルギーを蓄えているようだ。

 何故かこの湯は成分のためか利尿作用が強く、何度もトイレに走る。喉が渇くと湯口にそっと手をあて、無味無臭のラジウム源泉を体内に送り込む。          
 部屋にはお香が焚かれており、寝具も西川の「muatuふとん」が使われている。心身疲れを負った湯治客への配慮が随所に見られる。翌朝には身体の違いがハッキリと分かるほどだった。
 
 女性人気も高く、プチ湯治(2泊3日)プランや座禅プラン、プチファスティングプランも打ち出しており、ニーズの高まりを伺わせる。リクルートの調査によると一人旅ニーズは年々増加し、全体の20%ほどを占めるそうだ。
生活様式の変化から、更にこの傾向は強くなることだろう。

 この宿人気の理由は食事の旨さにもある。特に朝ごはんは出色だ。
一汁三菜の質素な朝食は、一品一品拘り抜かれた地元食材を使用。その美味しさに食堂のあちこちから感嘆の声が飛び交う。
 
 契約農家から仕入れた純度100%のコシヒカリと地元養鶏場の生卵、そして源泉で蒸かしたラジウム納豆とみそ汁がお代わりし放題。普段は小食だが、昼は抜くと決め3杯飯。お腹を抱え「muatuふとん」に飛び込みもうひと眠り。落ち着いたところでまた浴場へ、11時のチェックアウトぎりぎりまで、源泉を堪能した。

 
 
 帰りに寄ったのは昨日失湯した「大沢山温泉」。こちらには3つの旅館がある。秘湯を守る会所属の「大沢館」、絶景宿として度々メディアに取り上げられる「里山十帖」は名旅館として知られる。
 
 だが、その中間に位置する一見民家にしか見えない木造2階建の宿がある。”ホンモノ”の温泉ファンからが絶大な支持を受ける宿、それが「幽谷荘」。名前も強烈だが、それに負けじと外観もなかなか強烈。いつも窓際に掃除機が置いてあり、ここが旅館と気づく人は少ない。

 だが侮ってはいけない、3軒を支える源泉の湯元は「幽谷荘」だ。他の宿の湯はこの宿から引湯しているもの。つまり「最も鮮度が良く」で、「最も湯の個性を感じることが出来る」のは幽谷荘の源泉。

 商売っ気がないため前日に電話をすると、到着時間には開けてくれるとのこと。玄関を潜り帳場で声をかけると女将さんが出てきた。500円を支払い浴場へ。ドアノブを開けると脱衣所、その奥に小さい浴場。この辺りは民家のそれと全く変わらない。

 源泉は27度のため加温されているが、循環消毒はなし。鼻を抜ける油臭と
、とろみのある源泉は入った瞬間分かる超美肌泉質。驚きを超え、笑ってしまうほどのツルツル・トロトロ源泉だ。

 数年前、私の企画で会社の同僚男女4名で旅行をした。行程の中には有名旅館含め名湯を3件ほど織り交ぜた。概ね満足度の高い湯だったようだが、異口同音に「幽谷荘」が一番驚いたと話した。
 建物の老朽化や後継者問題、、余計なお世話だろうが勝手に勘案してしまう。いつもでも残してほしい名湯だ。

 
 弾丸1泊2日の越後旅、これで終了。東京駅から越後湯沢まで70分。浦佐までは80分(栃尾又温泉最寄り)。車であれば、関越に乗ってしまえば120分で越後の国へ。没後30年近く経った今も、未だ待望論が絶えない目白の闇将軍に、感謝!

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                                                                                                令和2年6月26日                             
                            






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