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難病営業マンの温泉治療㉑【鳴子湯治回想 温泉で仕事】

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 ※この日記は数年前、宮城県鳴子温泉郷にて1週間の湯治を行った際に記したものです。
 
 鳴子温泉郷の南北を分断するように通る108号線、どこにでもありそうな国道。だがこちらのロードサイドには数キロに渡り、ホームセンターやコンビニ・ドラッグストアと同顔に、超個性派の源泉湧き出す。

 滞在4日目の昼、宿から歩いて向かったのは川渡温泉「こはく湯の宿 中鉢(ちゅうばち)温泉」。こちらも一見民家の様な風体だが、中に入ると居間があり地元民が数名座布団を引き雑魚寝をしていた。
 
 中に入り500円を支払い浴場へ。琥珀色の源泉は植物性の油を含むモール泉。ミネラルを含有した酸水素塩泉(三大美人泉質の一つ)は、退湯後も
ツルツル感が残る。
 湯巡りを始めた当初は秘湯系に傾倒したこともあったが、当湯の様にファミリーマートの並びにある「シティ系」も侮れないと、こちらに来てからつくづく実感する。
 
 近年、関東首都圏近郊でもこのような「モール泉・黒湯」が掘削され、日帰り施設として人気スポットになることある。大いに結構な話。
 だが湯が出たことをまるで鬼の首を取ったかのように「天然温泉・美人の湯・源泉かけ流し」という謳い文句で掲示し、日帰りで1,000円近く徴収する点は、少々首を傾げてしまう。 

 多くの施設が湯量不十分のためかけ流し浴槽が異常に小さかったり、そもそも循環湯にも関わらず「源泉かけ流し」と表記されていることも珍しくはない。
 一概に循環湯を否定するつもりはない。だが、誰が入ったかも分からない湯を使い回し、プールの様な塩素消毒臭漂う湯に「ガッカリ感」を覚えるのは私だけではないだろう。大地から湧き出した手の加られていない源泉に入浴する方が、多くの方は満足されるはずだ。
 
 かつて、日本を代表する温泉地を数日間かけて湯巡りをしたことがある。十数件の施設を回ったものの、「源泉かけ流し」の湯(※加温・加水・濾過循環・消毒液使用、何れも施していない湯。専門家によって多少見解は異なる)には一件しか出会えなかったことがある。

 こちらに来て4日、豪華でスタッフの見送りがあるような施設には入っていないが、その全ての施設の湯遣いはかけ流しで、源泉本来の個性がしっかりと残っている。鳴子への畏敬の念は日毎増長していく。


 5日目の朝。全身痛と不眠症状は大きな改善は見られず、少々焦り始める。
  朝食を済ませたころ、チャイムや校内放送、子供たちの元気な声が宿に響いてきた。ここ、高東旅館の道を挟んだ向かい側は小学校だ。
 恐らく日本全国でも「湯治宿から最も近い学校」と断言してよいだろう。鉄筋2階建て・のぼり棒にジャングルジム・二宮金次郎像、誰もが想像できる田舎の学校。ノスタルジーに浸ると共に、ある不安要素が頭を擡げる。 

 ”もう、大型連休は開けたのだ” 

本日から世の中は平常生活に戻る。湯巡りをしつつも仕事のことも忘れてはいけない。特別休暇中であるとは言え、客先を相手にする職種上それを切り離すことはできない。

 新規獲得案件やトラブルの入電、メールに社内チャット等々「休みだったので」と無視することは許されない。これからは完全休養が欲しければ宇宙の果てまで逃げ回ることしかないのかもしれない。一方で業務効率を落とさず成果を残せれば、テレワークの推進の一助になるのも確かだ。

 散歩を終え、自分に鞭入れるが如く社用のノートPCを開く。裏路地のため電波は多少弱いもののWi-Fiが繋がった。「ワーケーション」の幕開けだ。
 今日からは会社携帯に加え会社PCとの呉越同舟。鳴った電話は全部取り、重要度の高そうなメールは極力返信するようにした。


 朝の一通りの業務を片付け、向かった先は鬼首の川風呂。3日前にはワニ軍団(※覗きを趣味とする湯族)に快浴を阻まれた湯だ。到着は10時半。車はやはり数台しか止まっておらず、見事にワニは一掃していた。

 露天に出ると先客は2名、あとから3人程来湯したが皆マナーを心得た方々だった。少々曇っていたものの温度は適温、30度台の温湯だ。滝壺へと歩いて歩いていき、凝り固まった方や背中に打たせ湯、いや滝行の如くを湯を浴びせた。
 
 「ドドドドドッ!!」
 
 ”よしっ!完全に湯を捉えた!” 

 求めていたのはこの感覚。少し休憩をしたいと思えば浅瀬の岩に腰掛け、今度はマイナスイオンのシャワーを全身に浴びせる。肩の凝りが解れると共に身体のだるさが抜けていくようだ。乾坤一擲のダイブは90分に及んだ。
 
 
 暫しの休息の後、次湯に選んだのは2年振り中山平温泉「名湯秘湯うなぎの湯 琢ひで」。日本秘湯を守る会・日本源泉湯宿を守る会にも所属する超名湯宿だ。

 ”どこの温泉が一番良かったですか?”

これは巡りを始めて以降度々聞かれ、その都度回答に困る質問だ。
 誰と行くか、時期はいつか、熱いの良いか温いのが良いか・・・
それによって一番良い湯は変わる。

 だが女性にこれを聞かれた時、私は東北であれば「琢ひで」と答えることもある。
その名の通り、ダイブした瞬間から鰻をグリップしたヌルヌル感、皮膚が一枚美肌ベールを被ったような肌触り。思わず触った瞬間笑ってしまうほど。

 その泉質、アルカリ性でありながら「含硫黄ー炭酸水素塩線ー硫酸塩泉」。美人の湯と言われる条件をこの1湯で満たしているのだ。
 外からは「アルカリ性・炭酸水素塩泉」、内側から「硫黄・硫酸塩泉」が効く。表層の角質を落としつつ、体内を巡らせ、水分を皮膚へと送り込むという化粧水要らずの超美人泉質。

 東京からは少々遠いが、行く価値がある。首都圏発で1泊では交通費のウエイトが大きいので、できれば2泊以上で投宿したいところだ。

 肌が絶好調になったところで、湯治も終盤へ。


                          令和2年9月23日

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