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住所不定宇宙

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勝手にエッセイ連載 東京都に生きる35歳のこと。
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【住所不定宇宙】木もれ陽がまぶしいということ

【住所不定宇宙】木もれ陽がまぶしいということ

朝、目が覚めると同時にスマホを手にする。
いつもならジャンププラスのアプリを開いて火曜日のお楽しみであるダンダダンを読むのだけれど、今日は違った。

詩人の谷川俊太郎さんの訃報が私のスマホにも届いていた。
きっと多くの日本人が驚きの声をあげた朝だったに違いない。
もれなく私も「え」という声が出た。

今回、タイトルにお借りしたのは、
谷川俊太郎さんの「生きる」という詩の一節。
私はこの一節に思い出

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【住所不定宇宙】寂しさ、が私にくれるもの

【住所不定宇宙】寂しさ、が私にくれるもの

35歳独身だ。

長らくパートナーがいないので、ひとりでいることに大変慣れている。
そんでもって大変楽しく過ごさせてもらっている。

ひとり映画も、ひとりラーメンも、ひとりプラネタリウムも、ライブの為のひとり遠征もお手のもの。

ひとりでこんな所行ったんですよ、こんなの食べたんですよと話していると、寂しくないの?と聞かれることがある。

寂しくない。悲しくもない。
楽しすぎて怖いくらい。
こんなに

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【住所不定宇宙】蔵でひとり

【住所不定宇宙】蔵でひとり

思い立ってひとり旅に出た。
ライブ遠征目的ではないひとりの旅はかなり久しぶりだ。

でっかい神社があって、東京から近くて、私が持っている旅エッセイや旅漫画に出てくる所。千葉の佐原に決定した。
サハラ、ではなくサワラ。
宿泊は愛読している「おひとりさまホテル」に出てくる「佐原商屋町ホテルNIPPONIA」にした。
このホテルは蔵や酒屋をリノベーションして宿泊部屋や夕食朝食会場にしている。それだけで心

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【住所不定宇宙】3分のイチも伝わらない

【住所不定宇宙】3分のイチも伝わらない

思い出したいことがあって、昔の日記を読み返す。
たしかに自分の字で書いているのに、誰かの日記を盗み見ているような気持ちになる。日記というより、小説を読んでいるみたいだ。
自分のことなのに、どこか現実味がない。
高校生から社会人になるまでの期間は、毎日書く用の日記帳と、書くのがおさまらないときに追記用の日記帳があった。
B5サイズのリングノート。
3冊あるけど、どれも違う柄で統一感なんてまるでない。

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【住所不定宇宙】好きなものは好きと、

【住所不定宇宙】好きなものは好きと、

美容師になってから15年も経つと、お客さんと話す内容が20代だった頃と違ってきた。
いま1番多いなと思う話題は、「推し」についてじゃないかと思う。
そして「推し」の話をする時、人はほんとうに良い顔をする。子どもの頃、綺麗な石を見つけた時と同じような顔をする。

今思えば、20代前半の頃に「あのお客さん、話しやすくて良い人だな〜」だなんて、ぽやぽやと思っていたけど、それは決して私のコミュニケーション

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【住所不定宇宙】ご自愛ください

【住所不定宇宙】ご自愛ください

仕事上、手紙を書く機会が多い。
手紙といっても長々と書くわけではなく、たいていが一筆箋で、文字数にすると200文字くらいか。
その限られた文字数の中にどう愛を落とし込むかが試されているようで好きだ。
近頃私が結びの言葉として一番多く使うのが、この「ご自愛ください」だと思う。

季節の変わり目だからご自愛ください、寒暖差もありますのでご自愛ください、感染症も油断できないのでご自愛ください。

ご自愛

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【住所不定宇宙】そうだ、鮭を焼こう

【住所不定宇宙】そうだ、鮭を焼こう

そうだ、鮭を焼こう、そう思った。

どこへも行かない、誰とも会わないと決めた休日がやってくる。
朝起きて顔を洗って、パジャマから部屋着に着替えて、髪の毛は頭のてっぺんでちっちゃいお団子にする。日焼け止めは付けるけど、メイクはもちろんしない。
録画してある最近始まった秋アニメを見て、気が済んだらBUMPOFCHICKENか米津玄師のライブブルーレイを見て過ごすと決めた休日がやってくる。

私なりの丁

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【住所不定宇宙】

【住所不定宇宙】

心の住所が定まらない。
からだは東京都にあるけれど。

ときどき、
午前3時頃に目が覚めることがある。
部屋の大きな窓を開けると、月が見える。
東京新宿のビル群の上に浮かぶ月。

この時間は私に1番優しい。

東京に住みはじめて15年が経つ。
誰かに連れて行ってもらわないとどこへも行けなかった18歳までの自分と何が違うんだろう。

35歳になったら仕事ではベテランと呼ばれるようになり、デコボコでグ

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