【住所不定宇宙】
心の住所が定まらない。
からだは東京都にあるけれど。
ときどき、
午前3時頃に目が覚めることがある。
部屋の大きな窓を開けると、月が見える。
東京新宿のビル群の上に浮かぶ月。
この時間は私に1番優しい。
東京に住みはじめて15年が経つ。
誰かに連れて行ってもらわないとどこへも行けなかった18歳までの自分と何が違うんだろう。
35歳になったら仕事ではベテランと呼ばれるようになり、デコボコでグラグラしていた足場は、いつの間にかしっかりと固まっていた。
それはほんとうに嬉しいことで、素晴らしいことで。
それでも、手のひらにすくいあげた全てが、砂のようにすり抜けて落ちていく感覚がある。
なにかを掴んだような気になって、なにも掴めていない。
いつだって自分が選んできたことは、その時の最善で、戻りたいだとかやり直したいだとか持っていてもしょうがない感情は少しもないはずなのに。
夜と朝のあいだ。
朝と夜のあいだ。
どっちから始まってどっちで終わるのか。
上とか下とか、右とか左だとか、
何ができて、何をしないのか。
わたしが頭の中でグルグルとさせている一切のことも、私という存在も、広いひろ~い宇宙で起こる現象のささいなひとつだと思うと、ひどく身軽になれた。
地球って星の日本の東京都に両足をしっかりつけながら、
今日も宇宙を漂っている。
月が見えない日でも、太陽が昇ることを知っている。