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【住所不定宇宙】そうだ、鮭を焼こう

そうだ、鮭を焼こう、そう思った。


どこへも行かない、誰とも会わないと決めた休日がやってくる。
朝起きて顔を洗って、パジャマから部屋着に着替えて、髪の毛は頭のてっぺんでちっちゃいお団子にする。日焼け止めは付けるけど、メイクはもちろんしない。
録画してある最近始まった秋アニメを見て、気が済んだらBUMPOFCHICKENか米津玄師のライブブルーレイを見て過ごすと決めた休日がやってくる。

私なりの丁寧な暮らしだ。

仕事の帰りに立ち寄ったスーパーで、秋鮭、という文字が目に飛び込んできた。
そうか、秋が来たのか。そりゃそうか。10月だもの。
あんなに溶けてしまいそうなくらいの猛暑日の連続だった夏も終わったのか。溶けてしまいそうだったけど、1グラムも痩せなかったな。始まれば終わるのか。
まったく時の流れというものにはつくづく驚かされる。

一人暮らし歴17年になるけど、魚を焼いたことがない。
2年前に引っ越すまでの15年は、IHコンロを置いていたので、魚用グリルというものを使うことがなく今日まで生きてきた。
自炊をしないわけではなく、なんかグリルって未知で怖い。一度餅を焼いて炎上した。見えない所で何かを焼いているのって怖い。そして洗ったりするのが面倒なイメージがある。じゃあフライパンで焼けばいいじゃないの、ってことなんだけど。
いつも実家に帰ると母が朝ご飯に鮭を焼いて出してくれる。
鮭って何分焼くの、どうなったら焼けたってわかるの、と母に問いかけてから半年は過ぎたと思う。
そう、半年前くらいから私は鮭を焼きたかった。

でもこれはチャンス。
予定のない休日に人生初の体験をする。
旬のものを食べて秋を感じる。
二重の幸せを手に入れるチャンス。

秋鮭2切れを購入する。

朝、アラームがなくても仕事の日と同じ時間に目が覚める。
鮭をグリルに置いてからなかなか落ち着かず、2分おきくらいにのぞき込んだり、開けてみたり、つついてみたり。

思ったよりも時間がかかったけど、しっかり焼けた。
そういえば全体的に白っぽくなったら焼けた証拠だよと母が言っていたのを思い出した。
ちょうどご飯も炊けた。スクランブルエッグも作った。
味噌汁はインスタントだけど、完璧な朝ご飯が完成した。

焼けた鮭を口に運ぶと、これぞ鮭、という味がした。
要するに、なんだか物足りなかった。想像していた食べたかった鮭の味とは違っていた。

それと同時に気付いた。
秋鮭って塩かかってないんだ。
母が出してくれていたのは塩鮭なんだ。
だったら、なんかもっとおいしく秋鮭を食べる方法があった気がする。
キノコと一緒にバターで焼くとか、ムニエルとかよくわかんないけど、とにかくグリルで焼くだけじゃない方が絶対においしかったはずだ。悔しい。

でもグリルで焼くことの楽しさを知ったので、次の日の朝食も秋鮭の2匹目を塩をかけずに焼いて食べた。

予定のない休日に人生初の体験をして、旬のものを食べて秋を感じると同時に、まだまだ世の中を知らない自分と出会った。
失敗を繰り返して大人になるのさ、とひとり暮らし初心者だった自分がひょこっと顔を出す。

そうだ、次は秋刀魚を焼いてみよう。
秋刀魚は塩をかけてから焼くだろう。
大根おろしを添えてみよう。

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