落としどころ
母校と話ができそうであることを
心療内科の先生に話したら
「あなたの中で落としどころを考えないと」と言われた。
まだ、どういう話ができるかわからない上に
母校がどう返してくるのかもわからない。
わからないうちに
結末、自分の中での判断はできない。
と、私は答えた。
ただ、この数ヶ月色々と考えていたことはあった。
もし謝罪をされたら。
私は、私に謝罪をされたとしても許すことはない。
決して許さない。
だが、学費を払った父には謝ってほしい。
私と一緒に謂れのない罵詈雑言を浴びせられた母に謝ってほしい。
大学に進学したばかりの兄弟姉妹に
「私、高校辞めるんだ」と言ったときの、彼らの動揺は忘れられない。
東京で何があったんだ、どうしてなんだ、と少なからず頭を抱えただろう。
楽しい大学生活の矢先に
妹が引きこもりの中卒ニートになるのではないかという心配も
どこかにあったのではないか。
私の中学受験の時間は無駄となったこと。
そう、家族には謝ってほしいかもしれない。
一番は、亡くなった母に。
気高く曲がったことの嫌いな母が
ああも学校に呼び出され
何も言えずに謝るしかなかったことはしんどかっただろう。
私は当時、どうしてお母さん何も言ってくれないの?
どうして。
と、母さえわかってくれないと憎くも思った。
だが、どうして言ってくれなかったのか
言わなかったのか
それは退学届を出した日に分かった。
言えなかった。
母親が口を出すと、学校で、見えないところで
子供の私が何をされるかわからない。
本当は母はずっと怒っていた。
「こんな子供に、なんてことをしてくれたんだ」と
退学届を出した日に先生方に向かって怒ったのを覚えている。
中学だけではなかった、高校を辞める直前に
体育教師から制服を捲り上げられたこと
数学教師から顔が触れるのではないかという距離で恫喝されたこと。
泣きながら母に話したことを
だけど、私が言っても誰も聞いてくれない。
バスが事故で遅れそうになったとき
電車と違って遅延届がもらえないから
母に電話をかけ「学校に遅れると電話してほしい。怖い」と
泣きながら懇願したこと。
そして結局、学校へ行ったら嘘つき呼ばわりされたこと。
母は、知っていた。
もうどうしようもないことを。
誰も私の話は聞かず追い詰められていたことを。
母は、どんな気持ちだったのだろうか。
※この話はフィクションかもしれません。